研究課題/領域番号 |
16K18031
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
トランシャン ローラン 九州工業大学, 大学院工学研究院, 特任助教 (50754785)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 表面フォノンポラリトン / 熱伝導率 / ガラス薄膜 / 減衰全反射 / 反射率測定 |
研究実績の概要 |
20nm~500nm厚さの自立シリカ薄膜を製作し,x線分析によりその純度の高さを確認した.自立シリカ薄膜の熱伝導率を3オメガ法で計測した結果,500nm厚さの薄膜で1.25W/(m・K),150nm厚さの薄膜で6W/(m・K)であった.薄い自立膜の熱伝導率は理論解析の結果と比較して有意に高い値になってしまっており,これは熱伝導率計測で用いる熱モデルにおいて,アルミ細線を通した熱損失を考慮していなかったためと考えられる.そこで,熱損失の効果を無視しうるほど低減するために自立薄膜の寸法を変更した結果,280nm厚さの薄膜で0.935W/(m・K),130nm厚さの薄膜で0.928W/(m・K)という値が得られた. また,時間領域サーモリフレクタンス用の自立薄膜の製作も実施した.ポンプ光の吸収を高めるためにアルミパッドを50nm~150nm厚さの自立シリカ薄膜の中央に成膜した.サーモリフレクタンス計測で得られた実験結果を解析結果にフィッティングすることが難しかったため,今後は,その要因を明らかとするとともに,良好なフィッティングが行える新しい解析モデルを構築していく. 加えて,表面フォノンポラリトン(SPhP)の周波数域を拡大するために,粗さを付けたガラス表面の反射率を測定した.シリカ微粒子をガラス板表面に配置することで表面粗さを増大させた.微粒子の半径は1ミクロンで,粒子間の距離は入射光の波長と比較して十分大きい.予備実験の結果,得られた吸収スペクトルはミー散乱理論との一致が良好で,また,SPhP周波数における特異な光の吸収も観察された.しかしながら,微粒子サイズを2ミクロンに変更したにもかかわらず,吸収周波数の変化が観察されなかった.次年度は,SPhPの伝播距離を減衰全反射法で計測する装置を導入して計測を行う.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
自立薄膜の形状が正方形であり,また,寸法が大きすぎたため,アルミ細線ヒーター自身の熱伝導による熱損失が大きくなってしまい,3オメガ法による面方向熱伝導率の予備計測の結果は予想を大きく上回るものとなってしまった.熱コンダクタンスの見積もりより,アルミ細線ヒーターの厚みを150nmよりも薄くする必要があることがわかった. サーモリフレクタンス計測では,自立膜中央への厚さ200nm,直径10ミクロンのポンプ光吸収用のアルミパッドの成膜が難航したが,複数のサンプルに対し計測を実施することが出来た.しかし,計測温度のフィッティングに用いる解析モデルが不適当であったため,計測された熱伝導率が0.5 W/(m・K)以下と予想を下回る結果となった.現在,近接場ふく射を新たに加味した適切なフィッティングが行える解析モデルの構築を行っている. レーザー周期加熱と薄膜熱電対による温度計測を組み合わせた熱拡散率測定も試みたが,薄膜熱電対を構成するニッケル薄膜の膜質に問題があり,正常に機能する薄膜熱電対を製作することができなかった
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今後の研究の推進方策 |
現在,アルミ細線を通した熱損失を低減するために新しくデザインした厚み100nm~200nmの自立薄膜に対して計測に取り組み始めている.計測結果として,表面フォノンポラリトン(SPhP)の効果は,膜厚が減少しても熱伝導率が一定となる結果として現れると予測している.また今年度は,SPhPによる熱伝導率促進がより顕著に現れる500K程度の高温まで実験を行う予定である.SPhPの伝播距離が大きく,自立薄膜の寸法5mmが不十分で,高温でもSPhPの熱伝導率促進効果が観察されない場合は,自立薄膜の寸法をさらに大きくして測定を行う. 時間領域サーモリフレクタンス計測では,近接場ふく射を考慮に入れた,より良好なフィッティングが行える新しい伝熱モデルを考案する. 減衰全反射測定装置では,反射スペクトルの計測結果からSPhPの伝播距離を知ることができる.また,伝播距離の計測結果から,自立膜サイズによる伝播距離の制限の有無を知ることができ,また,自立膜端部の反射率測定で伝播距離が制限を受ける様子を実際観察することができると予測される. シリカ粒子を用いたSPhP周波数領域の拡大に関する研究では,表面形状のパワースペクトルの取得が課題となっている.微粒子は基板に固定されていないため,AFMの利用は難しく,表面の顕微写真をフーリエ変換することにより,表面形状のパワースペクトルを取得し,吸光・反射特性との関連を調べていく.
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