接触部や空隙部のある機械システムでは,振動入力時の応答の増大により重要部品の損傷や騒音が発生することがある.このような機械システムの振動応答の推定にはFEM(有限要素法)が用いられるが,摩擦や衝突現象の高精度な再現が難しく,CAEによる最適設計の障壁となっている.本研究では,上記のような機械システムの振動応答を高精度に推定するため,FEMとMD(分子動力学法)を組み合わせたマルチスケール振動解析法の開発に挑む.具体的には,接触部や空隙部のように微視的なモデリングが必要な領域では個々の原子や分子挙動を追跡できるMDを用いるとともに,連続体要素によるモデリングが可能な領域はFEMを用いて 数値解析を行う.さらに,コンピュータの計算能力を考慮した上で高精度な振動解析を実現するため,MDによるモデリングの指針を提案する. 2019年度については,前年度に引き続きMD解析用プログラムの高速化・大規模化およびFEMとの結合について実施した.本研究においては,九州大学スーパーコンピュータシステム(Intel Xeon Gold 6154 18core×2CPU)を用いて解析を実施しており,2019年度も継続して本システムを利用した.また,MDによる銅製平板と球の接触解析を実施し,接触半径が現実的な値となるか確認した.MD-FEM間の結合については結合部における力学量の変換について検討を行った.振動試験に関しては,実験装置の製作,計測機器(レーザー変位計)の購入を行った.平板および接触部の大きさ,接触面形状や表面性状が系の振動に大きく影響を及ぼすことから,AFM用のカンチレバー(Si製)などを用いて実験装置の小型化を検討する必要があることが分かった.
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