研究課題/領域番号 |
16K18042
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
中江 貴志 大分大学, 工学部, 准教授 (80579730)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 自励振動 / ディスクブレーキ / 熱変形 / 時間遅れ / パターン形成 / ジャダー / 安定判別 |
研究実績の概要 |
本研究では,ホットジャダーを発熱が起因する自励振動問題として捉え,発生メカニズムを解明し,その防止対策を提案することを目的としている.平成28年度は,以下の2つの項目について研究を実施した.研究実績の概要について以下にまとめる. 1.基礎実験を用いたホットジャダーの再現実験について ホットジャダーを再現するために,鉛直方向に振動可能な低自由度の実験装置の設計・製作を実施した.この実験装置は,ディスクロータに見立てたロールをサーボモータで回転し,ロールの端面に摩擦材を押し付け引きずり試験を行うことができる.製作した実験装置に対し,実験モード解析を用いた打撃試験を行い,この装置のモードパラメータを精査に求めることができた.さらに,このモードパラメータを用いて,実験装置の再設計へのフィードバックおよびホットジャダーが発生しうる振動モードを選定することができた.また,予備実験として引きずり試験を行い,ロール端面の表面温度を熱伝対で測定するとともに,レーザー変位計(物品購入)を用いて,ロール端面の表面形状の測定を行うことができた. 2.理論的アプローチによるホットジャダーのメカニズム解明について ホットジャダーを時間遅れを伴う自励振動により,ディスクの表面にホットスポットが発生するパターン形成現象の1つとして捉え,まず,自由度をもたない回転円板とキャリパの面外方向の運動を考えた1自由度系の解析モデルの構築を行った.1点接触でのディスクの過熱・冷却による非定常熱伝導・熱伝達解析を行い,ローター表面の温度・膨張量を再現することができた.また,膨張量を運動方程式中の接触力に反映し,系の安定判別を行った.安定性解析からホットジャダーに相当する不安定振動が確認でき,その発生振動数はホットスポットの数に相当するパターンの数にディスク回転数を乗じた値になることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究実施計画に記載したとおり,実験では回転する円板の端面に摩擦材を押し付け制動する基礎的な実験装置を設計・製作まで行うことができた.また,予備実験を開始することができた.さらには,摺動面の温度と振動変位を測定する環境を整えることができた.また,実験モード解析ソフトを用いて作成した実験装置のハンマリング試験を行い,システムパラメータを同定することができた. 解析では,ディスクに摩擦パッドが接触し,加熱される過程およびパッドを通過し,冷却される過程を非定常熱伝導および熱伝達解析を行い,一回転中のディスク表面の温度分布および膨張量を再現する計算手法を開発することができた.また,1自由度振動系の解析モデルを構築し,ディスクの膨張量を運動方程式中の接触力にフィードバックさせ,熱に起因する変形形状のフィードバックによる時間遅れ系として安定判別を実施することができた. 以上から,現在までの研究実施に対する進捗状況として,実験および解析両面においておおむね順調に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度以降は,理論・基礎実験との比較検討およびホットジャダーの理論・実験両面によるメカニズム解明を実施する。また,実験と理論の両面から,減衰による効果,あるいは動吸振器の制振効果を確認し,最適設計法を提案する.さらに,実機との整合性を確認する. 平成28年度中に製作した基礎実験装置でディスクの表面温度を上昇させ,レーザー変位計でその振動変位を測定する.さらに,ロール表面の温度分布を測定することでホットスポットが再現できているか確認を行う.再現が困難な場合は,摩擦材をロールの端面でなく側面(両面)に押し付ける装置を再設計することで,よりロール表面温度をの上昇を期待する.さらに,動吸振器を設計・製作し,ホットジャダーの抑制実験を行う.ホットジャダーの抑制に必要な,動吸振器のチューニング法および最適な減衰比について,その設計法の提案を行う. 理論解析では,平成28年度中に構築した解析モデルを用いて,シミュレーションを行い,ホットスポットと振動モードとの位相の関係を調べ,接触力の変動が温度分布にどのように影響するのかを調べる.さらに,より実機に近い分布接触モデルやディスクの自由度を考慮したモデルに拡張し,ディスク表面の温度および膨張量の再現を行う.また,ブレーキオン・オフの繰り返し実験に対応する,シミュレーション解析を行い,ホットジャダー発生の一連の現象解明を行う. 今後の研究の推進方策として,従来の摩擦自励振動系には見られない,熱に起因する変形形状のフィードバックによる時間遅れ系の自励振動を解明し,その防止対策を確立していく.さらに,高温環境下で使用される機械製品に汎用できる製品技術の開発を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に物品として計上していた,温度計および熱電対を科研費以外の研究費で購入したため約35万円の次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
2017年7月にロンドンで行われる国際学会,24th International Congress on Sound and Vibration (ICSV24) に参加し,この研究課題に関する成果について講演発表を行うことが既に決定している.この出張(8泊9日分)の旅費として使用することを計画している
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