ロボットの遠隔作業・操縦の支援を目的として,触覚情報の伝送技術に関する研究報告が数多く報告されている.さらに近年では,高周波な成分を含む振動触覚情報を伝送する技術が注目されている.本研究課題では,心理物理実験および多変量解析的手法を用いて,計測振動および劣化振動の関係を定量化し,遠隔伝送に適用可能な振動情報の変調手法を構築する. 本年度は,昨年度に対象とした非周期的な衝突振動ではなく,高周波成分を含む周期的な振動情報を対象とした.具体的には,キャリア周波数を300~600[Hz]とするAM変調波を用いて,生振動と劣化振動の知覚的な等価度合を評価することで,振動波形のいかなる成分が知覚的差異につながるのかを調査した.劣化振動は,生振動のエンベロープ波形に比べ低い時間解像度となるエンベロープ波形を有する振動であり,時間的に分割される各区間における振動のエネルギは生振動のエネルギと等しくなるようにエンベロープの振幅を変調した.調査の結果,生振動のエンベロープ周期の1/5以上の解像度を保持した劣化振動であれば,劣化振動のエンベロープ波形が生波形のエンベロープ波形に比べ低解像であっても,知覚的な差異は生じないことが示された.以上の成果は,高周波振動情報を遠隔伝送する際に,知覚的な等価性を維持しつつも伝送する情報量を削減することを可能にする成果であり,触覚技術に関する国際会議での発表が決定している.また,高周波振動情報の変調手法を用いたロボットの遠隔操縦システムの構築も行った.今後は構築したシステムが操縦支援に及ぼす影響を定量的に評価する計画である.
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