研究課題/領域番号 |
16K18061
|
研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
長谷川 一徳 九州工業大学, 大学院生命体工学研究科, 助教 (80712637)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | パワーエレクトロニクス / キャパシタ / 信頼性 |
研究実績の概要 |
低炭素化・省エネルギー化に大きく寄与するパワーエレクトロニクス回路の構成要素であるキャパシタは,パワー半導体デバイスとインダクタに比べ熱による劣化が大きく低寿命であり,キャパシタの寿命がパワーエレクトロニクス回路自身の寿命を決定している。キャパシタの劣化は温度だけでなく電圧・電流波形に大きく依存し,その劣化メカニズムは非線形性を有するためスケールアップモデルが成り立たない危険性がある。従来,キャパシタは実際の電流波形・電圧波形と大きく異なるサイン波形を用いて評価が行われていた。パワーエレクトロニクス回路の信頼性向上のため,キャパシタの高精度な評価を実現するには実際の機器が発生する電圧・電流波形を再現することが必須条件である。 本研究では,パワーエレクトロニクス回路の信頼性向上に資するキャパシタ評価技術の確立を目的に,実際の回路が発生するリプル電流波形とバイアス電圧を正確に再現するキャパシタ評価に適した小型インバータの開発を行った。リプル電流供給用に小型インバータ回路と,バイアス電圧供給用に小型直流電源を別々に設けることで,フルスケールインバータを用いた評価に比べシステムの電力定格を1/10程度 に低減できる点に特長がある。例えば,200 V 系の安価な汎用インバータやパワー半導体モジュールを用いて,数kV クラスの大容量インバータ向けキャパシタの評価が可能になる。120 V定格の小型インバータを設計・製作し,理論と実験により小型インバータが定格1200 Vのフルスケールインバータと等価な動作を実現することを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度はキャパシタ評価に特化した小型なインバータの開発を行った。このインバータはバイアス電圧供給用に小容量の直流電源と組み合わせることで,電流はフルスケールであるが,電圧定格を1/10程度に低減できる特長を有する。さらに,キャパシタに流入するリプル電流とバイアス電圧を独立に制御できるため,平成29年度に検討する発熱のデータベース化に活用できる。 フルスケールインバータが発生するリプル電流波形をシミュレーションと実験により調査を行い,その情報をもとに小型インバータに適した回路構成を設計した。理論解析と回路シミュレーションにより小型インバータの動作を確認するとともに,フルスケールインバータと等価リプル電流とバイアス電圧がキャパシタに印加されるように回路パラメータを設計した。この際,測定対象のキャパシタの容量と等価直列抵抗が変化した場合であっても,フルスケールインバータと等価なリプル電流が供給出来ることを確認した。小型インバータの電圧定格低減の効果を理論的に導出し,フルスケールインバータに比べ1/10以下の電圧定格に出来ることを明らかにした。 小型インバータの定格を~200 V,~100 Aとして,バイアス電圧供給用の高電圧直流電源(~3 kV)と組み合わせることで,1~3 kV クラスのフィルムキャパシタの評価を実現する環境を整備した。小型インバータがキャパシタに供給するリプル電流波形を測定し,フルスケールインバータのリプル電流と等価であることを時間領域および周波数領域において確認した。さらに,キャパシタのバイアス電圧をリプル電流波形に干渉することなく独立に調整できることを実証した。小型インバータを用いた検討に加え,バイポーラ電源を用いてキャパシタ損失評価の基礎検討を行った。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究では,(1)キャパシタ発熱と電流・電圧波形の関係の分析と,(2)キャパシタの加速劣化試験について検討する。 (1)キャパシタ発熱の電圧・電流波形依存性の関係の分析では,小型インバータを用いて実リプル電流流入時におけるキャパシタ発熱を測定する。インバータ動作条件とキャパシタのバイアス電圧がキャパシタ発熱に与える影響を分析する。これに加え正弦波電流流入時の発熱も測定し,実リプル電流波形流入時の発熱と比較を行う。発熱の測定は,キャパシタが十分に温度平衡に達した際の表面温度および温度分布から推定を行う。以上の結果から,電流・電圧波形に対する発熱のデータベース化を図ることで,信頼性志向のキャパシタ選定の設計指針に活用する。 (2)キャパシタの加速劣化試験では,小型インバータを長時間連続運転させキャパシタの加速劣化試験を行う。キャパシタの劣化を加速させるため恒温槽を用いて高温環境下で試験を行う。実リプル電流を用いた試験により,実際のインバータの動作環境下での寿命診断が実現する。キャパシタの等価直列抵抗(ESR)の増加率とキャパシタンスの低下率を測定することで劣化の判断を行い,キャパシタ寿命予測の定式化を行う。 以上にように,パワエレ機器の高寿命化や高信頼性に資するキャパシタ評価技術を確立し,標準化提案を目指す。必要に応じてフルスケール・パワーテストベッド(現有設備)とバイポーラ電源を活用したキャパシタの評価を行い,小型インバータを用いた実験との摺り合わせを行う。また,キャパシタに電圧センサと電流センサを接続し,電気的にも特性を評価できるようにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究分野とより関係性の高い2017年5月開催の国際会議,PCIM Europe (Power conversion and Intelligent Motion)での発表に伴う旅費・学会参加費の計上のため。
|
次年度使用額の使用計画 |
PCIM Europeへの参加費および旅費を計上する。
|