研究課題/領域番号 |
16K18074
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
谷川 智之 東北大学, 金属材料研究所, 講師 (90633537)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 窒化物半導体 / 分極電界 / 変調分光 |
研究実績の概要 |
巨大な分極を有する半導体デバイスの性能向上に向けて、デバイス動作時に極めて近い状態で分極電界を定量評価し、バンドプロファイルを制御する技術を確立することを目的とする。これまでに、発光ダイオードおよびトランジスタの作製技術の確立とデバイス動作中の電界の方向と強度を定量評価する技術の確立を試みた。III族極性およびN極性GaN上にInGaN/GaN多重量子井戸を発光層とした発光ダイオードを有機金属気相成長法により成長し、フォトリソグラフィを用いてp型GaNおよびn型GaN表面に電極を形成した。電極間に交流電圧を変調信号として印加し、電界変調反射スペクトルを測定したところ、内部電界の向きと強度に応じて反射信号の形状が変化し、電界の向きや強度を定量評価できることが分かった。また、N極性GaN/AlGaN/GaN高電子移動度トランジスタ構造を作製し、AlNモル分率0.20、膜厚25 nm程度でクラックのない構造が得られることが分かった。 平成29年度は、ヘテロ界面の固定電荷を制御するための結晶成長技術を検討した。N極性GaN/AlGaN/GaNトランジスタ構造を対象とし、最上層のGaN層に蓄積される電子濃度の増加を試みた。GaN/AlGaN/GaN構造に蓄積される電子濃度は1×10^13 cm-2程度であることをホール効果測定により確認した。このGaNをInGaNに置き換えると、圧縮歪に起因した圧電分極が印加される。圧電分極により、InGaN/AlGaN界面の分極不連続量が増加し、より電子を引き寄せることができる。有機金属気相成長によりInGaNの混晶組成を変えながらInGaN/AlGaN/GaN構造を成長し、電子濃度をホール効果測定により評価した。その結果、InGaN中のInNモル分率の増加に伴い電子濃度が増加し、InNモル分率0.11の時に電子濃度が2倍程度となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、ヘテロ界面の電荷を制御するための構造を作製するための結晶成長技術の確立を目的として研究を実施した。 平成28年度までにN極性GaN/AlGaN/GaN構造を作製し、分極効果により電子が最上層に蓄積することを確認できていた。この電子濃度を増加させることで、動作電流を増加させることができる。そこで、今年度の目標はN極性GaN/AlGaN/GaN構造のヘテロ界面の電荷を制御する構造の作製を試みた。最上層をGaNからInGaNに置き換えて有機金属気相成長を行った。InGaNは平坦な膜を得るのが難しく、初期検討時はInGaN表面に60 nm程度の凹凸を有しており、平坦膜を得るのが課題であった。有機金属気相成長時の成長温度や原料供給量などを検討し、さらにInGaN中のInNモル分率を0.11以下に抑えることで、平坦な膜を得ることができた。この構造において、電子濃度が増加することをホール効果測定により確認できた。GaN/AlGaN/GaN構造と比較して、InGaN/AlGaN/GaN構造の電子濃度は2倍程度だった。二次元電子ガスが蓄積することを確認するために、金属-絶縁体-半導体構造を作製し、C-V測定を行った。C-V特性からキャリア濃度の深さ分布を評価したところ、InGaN/AlGaN界面近傍で電子濃度が急激に増加し、ピーク値で2×10^19cm-3の濃度を得た。 以上の結果から、目標とする構造の作製に至ったと判断し、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、不純物ドーピングによる分極電荷の補償と、デバイスの性能向上を目指す。 ヘテロ界面近傍に高濃度の不純物を局所的にドーピング(δドーピング)することで、イオン化したドナーもしくはアクセプタが擬似的に分極固定電荷と同様の機能を示し、分極固定電荷の補償が期待できる。InGaN/GaN発光ダイオードなどの光デバイスでは、分極電界が存在すると電子と正孔が空間的に分離することから、分極効果は発光効率低下の原因となる。分極電荷を保証できれば、発光効率の向上を期待できる。結晶成長法はこれまでと同様に有機金属気相成長法を用い、サファイア基板上にInGaN/GaN多重量子井戸LEDを成長する。活性層であるInGaNの混晶組成は0.2~0.3とし、青色から緑色のLEDを作製する。量子井戸内に分極不連続量に相当する不純物をヘテロ界面近傍のGaN中にドープし、電界強度の低減を図る。結晶成長後にリソグラフィーとドライエッチングおよび蒸着によりn型層とp型層に電極を形成し、電流電圧輝度特性を評価する。変調分光法により内部電界を定量評価する。これらの関係から電界強度と発光特性との関係を比較する。結果の妥当性を検証するためにSiLenSeを用いたバンド計算を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度はフォトリフレクタンスの励起光源として必要なレーザーを購入し、学会発表のための旅費として支出した。それ以外に不純物濃度分析および構造解析を外部機関に依頼するための費用を計上していたが、外部委託用の試料の準備が間に合わなかったため次年度に繰り越した。 平成30年度は、分極電荷を補償させるために不純物ドーピングを行う。この実験においては、結果の妥当性を議論するために二次イオン質量分析により不純物濃度を定量評価することが必要である。そこで、平成30年度の使用計画は、結晶成長法である有機金属気相成長に必要な基板と原料などの消耗品と分析委託費を計上している。さらに成果を発表するための旅費などを計上している。
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