研究実績の概要 |
次世代スピンデバイスの創製には、ゲルマニウム(Ge)などの半導体材料中において高効率な純スピン流の生成が不可欠である。しかしながら、従来の強磁性体金属を用いた純スピン流の生成方法では、強磁性金属の低いスピン抵抗に起因するインピーダンスミスマッチによる純スピン流の逆流を抑制できないため、報告されている純スピン流の生成・検出効率は非常に低い値に留まっていた。そこで、研究代表者は、スピン抵抗が半導体材料よりも十分に高い強磁性絶縁体中のスピン波(磁気モーメントの歳差運動により形成される波動)を用いたGe中への高効率純スピン流生成技術の開発を着想した。 初年度は、強磁性絶縁体材料であるイットリウム鉄ガーネット(YIG)の高品質な微細パターンを得ることができずに、純スピン流の検出に至らなかった。最終年度は、まず、有機金属分解法(MOD)法を用いたYIG微細パターンの高品質化に取り組んだ。YIGは、ドライエッチングが難しく、微細加工の際、薄膜にダメージが入りやすいという欠点がある。そこで研究代表者は、ドライエッチングプロセスを必要としない微細加工技術として、電子線照射(EB-)MOD法に注目した。この手法は基板に塗布したMOD前駆体薄膜が電子線に対して感度を持つことを利用した手法であり、強誘電体や酸化物超伝導体などで多数の報告がある。研究代表者はこの手法をYIG用のMOD溶液に応用することで、ドライエッチングを用いることなく、高品質なYIG微細パターンをガドリニウムガリウムガーネット基板上に作製することに成功した。[K. Kasahara and T. Manago, Jpn. J. Appl. Phys. 56, 110303 (2017).] 今後は、この高品質なYIG微細パターンを用いることで、Geなどの非磁性材料中への高効率なスピン注入が期待できる。
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