研究課題/領域番号 |
16K18089
|
研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
竹内 尚輝 横浜国立大学, 先端科学高等研究院, 特任教員(准教授) (00746472)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 断熱型超伝導回路 / セルライブラリ / 窒化ニオブ / QFP |
研究実績の概要 |
本年度は、窒化ニオブを用いた断熱型超伝導集積回路の実現に向け下記の研究を実施した。
【セルライブラリの構築】回路設計を効率的に行うため、インバータ等の基本論理セルを含むセルライブラリを設計した。従来より超伝導集積回路に広く用いられてきたニオブに比べ、窒化ニオブは磁場侵入長が大きいためシートインダクタンスが大きい。そのため、基本論理セルの面積を従来のデザインに比べておよそ半分に低減することに成功した。また、液体ヘリウムよりも高い温度(10 K程度)においても低誤り率で動作が可能なように、論理セル中のジョセフソン接合の臨界電流値を従来のデザインに比べて倍の100 uAとした。各論理セルは、申請者がこれまでに提案したミニマル設計と呼ばれる方法で効率的に設計された。また、素子ばらつきや不要な磁気結合の影響を抑えるため、対称的なレイアウトを採用した。各論理セルのパラメータはインダクタンス計算ツールによって抽出され、シミュレーション環境を構築した。 【数値計算による小規模論理回路の実証】構築したセルライブラリを用いて、小規模論理回路であるXORゲートを設計した。数値計算により動作実証を行い、電源電流の変動に対する広い動作マージンを確認した。また、バッファチェインを設計し消費エネルギーの見積もりを行った。計算結果より、ゲート当たり約 10 zJ ns という非常に小さなエネルギー遅延積を確認した。この値は、半導体集積回路に対して3、4桁の優位性がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究テーマであるセルライブラリの構築、小規模論理回路の実証、共におおむね順調に進展した。
【セルライブラリの構築】インバータ等の基本論理セルを設計し、各セルのパラメータをインダクタンス計算ツールにより抽出した。よって、窒化ニオブを用いた断熱型超伝導集積回路の実証で必要となる設計・シミュレーション環境を一通り構築することができた。また、窒化ニオブの比較的大きい磁場侵入長を活かし、面積の半減という予想以上の成果が得られた。窒化ニオブで作成するジョセフソン接合の特性は比較的ばらつきが大きいが、セルの小型化によりジョセフソン接合を近い距離で配置できるため、素子ばらつきの影響を低減できることが期待できる。上記二点(小型化、ばらつきに対するロバスト性)より、窒化ニオブを超伝導ディジタル回路へ応用する際のメリットが示された。 【数値計算による小規模論理回路の実証】構築したセルライブラリの論理セルを用いてXORゲートを設計し、数値解析により広い動作マージンを確認した。また、バッファチェインの解析からゲート当たり約 10 zJ ns という非常に小さなエネルギー遅延積を確認した。これまで断熱型超伝導回路はニオブを用いて研究が行われてきたが、本検討結果より、窒化ニオブを用いた際にも優れた動作マージンとエネルギー効率が得られることが示された。
|
今後の研究の推進方策 |
窒化ニオブを用いた断熱型超伝導集積回路の最大回路規模の見積りに向け、下記の研究を行う。
【シートインダクタンスの評価】本研究では、情報通信研究機構が提供する窒化ニオブ超伝導集積回路プロセスを用いて断熱型超伝導論理回路を作成する。そこで、超伝導回路のパラメータに影響を与えるシートインダクタンスの測定を行う。測定結果より、セルライブラリ設計時に仮定した回路パラメータの妥当性を検討する。 【論理回路の作成及び動作実証】情報通信研究機構が提供するプロセスを用いて断熱型超伝導論理回路を作成し、実験により動作実証を行う。複数種類の論理回路を作成し、各回路の動作マージン及び歩留まりを評価する。動作マージンがシミュレーション結果よりも小さかった場合には、シートインダクタンスの測定結果を考慮して考察を行う。 【最大回路規模の見積もり】各論理回路の歩留まりから、素子ばらつき及び最大回路規模を見積もる。また、素子ばらつきの改善により最大回路規模をどこまで改善することができるか考察を行う。
|