研究課題/領域番号 |
16K18093
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
藤井 茉美 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 助教 (30731913)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 酸化物半導体 / 薄膜トランジスタ / イオン液体 / スティープスロープ |
研究実績の概要 |
これまでに,イオン液体をゲート絶縁体とするIGZO薄膜トランジスタ(TFT)という有機-無機ハイブリッドデバイスの作製環境および計測環境を立ち上げた.立ち上げた設備を用いて,イオン液体をゲート絶縁体として用いたIGZO TFTを作製し,その特性を確認した.このTFT素子で,急峻なON/OFFスイッチングを示すスティープスロープ特性を実現することができた.長時間電流を流した場合の特性変化など,長期的な電気特性の信頼性には課題が残るが,今後この改善を進めていく. Ⅰ.サイドゲート型IGZO TFTを作製し,特性を確認.スティープスロープ実証. Ⅱ.長期信頼性解析を行ったところ,界面反応によると考えられる電気特性劣化を観測した. Ⅲ.劣化の要因の解析を進める中で,重金属元素の反応が生じていることを示唆する結果を得た. ここで,イオン液体は最大温度120度程度のプロセスで形成できる材料である.また,IGZOは室温で成膜できる酸化物材料である.従って,これらの成果は,極低電圧駆動のスイッチングデバイスをフレキシブル基板上に作製できる可能性を示唆するものである.1日程度の短期間使用では問題のない信頼性を示したが,長期的な使用には課題が残る.従って,電池を電源とするポータブル端末,使い捨て使用が可能なウェアラブル生体センサなどへの応用が考えられる. さらに今後信頼性の改善を進めることで,使い捨てでないフレキシブル・ウェアラブルなディスプレイやセンサデバイスを実現することが可能となる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究実施計画(4項目)のうち,「Ⅰ.低抵抗Si基板上にサイドゲート型酸化物半導体TFTを作製する Ⅱ.カバー膜を形成し,チャネルとゲート電極を露出させ,その中にイオン液体を滴下する. Ⅲ.TFT特性のスティープスロープ実証」までの3項目を達成できた. 「Ⅳ.長期信頼性解析を行い,無機ゲート絶縁膜と比較してイオン液体の特異的な劣化現象を抽出し,その要因を明らかにする.」については,現在解析を進めている.その中で,特異的な劣化現象抽出は完了している.要因についてはある程度の予測を立てて解析しており,一つの可能性を示唆する結果を得ることができている.しかし,劣化要因全てを明らかにしたものではない.そのため,最終項目の結論に達していない.従って,わずかに遅れが生じたものの,おおむね順調であると考える.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度実施計画の項目4を完了させる.この結果により,平成29年度計画の劣化抑制手法を提案し,効果検証を進める.現時点で明らかになった要因から,以下の劣化抑制手法2種類を提案している. ①極薄膜無機絶縁体を界面に導入することによる界面反応抑制手法. ②イオン液体のゲル化により,上部封止膜の導入. ①については,スパッタ法および原子層堆積法を用いた絶縁膜形成を検討する.②については,イオン液体のゲル化プロセスを検討中であり,完了すれば上部に真空プロセスを用いた良質な封止膜を形成して外部からの影響を抑制できる. これらにより,まずはシリコン基板上に大気中でも劣化しない有機‐無機ハイブリッドデバイスを実現し,次にフレキシブル基板上に形成することを目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
妊娠していることが解り,一部計画に変更が生じたため.詳細には,参加予定の学会をキャンセルした事で,その他の学会参加費が不要になった.また,予定していた委託業務を取りやめたため,謝金が不要となった. 物品費では,予定より安価なもので代用した.
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次年度使用額の使用計画 |
自分の出張が制限される状況であるため,学会発表など代理で出張を依頼することが増えると考えられる.そのため,学生や研究員の旅費として使用する予定である.
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