本研究は、これまで提案・理論解析・予測性能評価を行ってきた自己補対ボウタイアンテナ集積共鳴トンネルダイオードテラヘルツ送信器の試作・評価を行い、提案テラヘルツ送信器の設計理論の確立および無線通信応用のための実現条件を工学的に明らかにすることを目的としている。 平成30年度は、(1)デバイス作製に関してはプロセス改善を行い、(2)理論解析に関しては周波数・位相の同期現象に関してさらなる特性解析を行った。具体的に行った内容と成果を以下に示す。 (1)プロセス改善の最も大きな障害が層間絶縁膜のドライエッチングにあった。デバイスを作製する時期により、エッチングレートやエッチングむらが生じており、再現性良くデバイス作製することができず、TBRTDの特徴である微分負性抵抗領域を観測することが出来ていなかった。本年度の研究により、これらの原因が層間絶縁膜の保存期間に依存していることを突き止め、出来るだけ一定なものを選択した結果、プロセス改善は達成され、微分負性抵抗領域の観測は達成できた。しかし、観測された微分負性抵抗領域の電圧範囲が非常に狭く、テラヘルツ送信器の作製に適さないものであった。この原因を明らかにするために、透過電子顕微鏡によるウェア断面の観察を実施した。結果として、設計通りの膜厚となっておらず、膜厚の揺らぎも大きいことが微分負性抵抗領域を観測しずらくしている原因であることが明らかとなった。 (2)提案しているテラヘルツ送信器間を金属配線およびシャント抵抗で構成された結合構造によって、周波数同期かつ位相の同相同期を実現できること、同相同期可能なバイアス電圧範囲があることを明らかにした。さらに同相同期となるバイアス電圧を広くするために、金属配線長やシャント抵抗部の配線長、シャント抵抗接続部構造を提案し、同相同期の電圧範囲が金属配線長に強く依存することを明らかにした。
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