平成29年度は,2台のRGBカメラで取得した画像を用いて推定した脈波伝播時間(PTT: Pulse Wave Transit Time)から血圧値を推定する手法の基礎研究を実施した.先行研究にて,身体の2点にそれぞれECGやPPGといったセンサを接触させ,その2点の脈波から求めたPTTを用いて収縮期血圧(SBP: systolic blood pressure)を推定できることが報告されている.本年度は非接触計測によるPTTとSBPの同時計測からこれらの関係について調査した. まず,2台同期撮影が可能なRGBカメラ撮影システムを用いて顔と手のRGB動画像を取得し,それらの画像から各部位における脈波を推定した.各脈波を一次微分することで抽出した2つの脈波の立ち上がり点の平均時間差をPTTとした. 次に実験方法及び結果を述べる.まず,SBP上昇の刺激としてハンドグリップ運動を実施したストレス状態と運動をしないレスト状態におけるPTT値の違いについて調査した.5名の被験者に対して実施した結果,ストレスにより被験者間における平均SBPが有意に上昇すると共に平均PTTも有意に短くなった.次に,呼吸停止により血圧上昇が起こる生理現象を用いて,呼吸停止前後のPTT変化を調べたところ,PTTは呼吸停止前後で大きく変化した.最後に,1名の被験者に対して, ハンドグリップ負荷が有りと無し場合で合計14回計測を実施し,SBPと非接触PTTの関係を調査した.この関係におけるピアソンの積率相関係数は負の相関を示した,R = -0.72 (p < 0.05).さらに,メーンズ・コルテベーグ式から導かれるSBPとPTTの間の非線形な関係式によってフィッティングを行ったところ,その決定係数(0.59)は線形フィッティング(0.48)の時よりも高いことが明らかとなった.
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