テラヘルツ波技術を世の中で広く共有するためには、テラヘルツ波に関する計量標準が必要である。とりわけ、テラヘルツ波センサの線形性の精密計測は、透過率、反射率、吸収率測定の基礎となるため、スペクトル解析の要素技術として重要である。本研究ではテラヘルツ波帯では初めて、重ね合わせ法によってテラヘルツ波センサの線形性を自己校正するシステムを開発した。重ね合わせ法とは、テラヘルツ波を、それぞれ等しい強度となる様に二分し、個々の波を独立に測定した場合と二波同時に測定した場合を比べ、「1+1=2」という単純な和算が成り立つかどうかを検証するものである。 上記の原理に基づく線形性自己校正システムを実現するためのポイントは、分けられた二波の強度が等しくなる様に調整可能にすること、および二波同時に測定する際に波同士の干渉を避けることである。これらの課題は複数のワイヤグリッド偏光子を用いて独自に工夫した光学系によって実現された。本光学系では、ワイヤグリッドの角度によって分岐比が調節可能であり、さらに分岐された二波は互いに直交しているため、再結合して二波同時に測定する際にも干渉はしない。 本研究では、開発した線形性自己校正システムを用いて、テラヘルツパワーメータや焦電センサなど複数のセンサに対して線形性の定量評価を行った。この結果、20 ~ 500 μWのレンジにおいて、概ね1 %前後の線形性を定めることができた。テラヘルツ波センサの線形性を重ね合わせ法に基づく自己校正によって定量評価できたのは本結果が初である。
|