本研究では、原子間力顕微鏡(AFM)による線幅計測の不確かさ低減に向けたAFM探針形状の絶対評価技術開発を行った。本研究の傾斜探針AFMによる線幅計測では、傾斜させた探針を走査することによってラインパターンの垂直側壁の形状計測を可能にしている。そのため、ラインパターン全体のAFM像を得るためには、ラインパターンの左右それぞれの側壁を含むAFM像を2回の計測で取得して結合する必要がある。 今年度は、前年度までに開発したAFM像に畳み込まれるAFM探針形状幅の補正技術を用いて、半導体ラインパターンの線幅校正とその値の不確かさ評価を行った。このとき、約110 nmの既知の線幅(参照線幅)をもつ線幅標準試料を校正対象に用いることで、AFMによる線幅校正値の検証を行った。実験では校正対象の線幅計測に加え、その前後に補正用の探針形状幅の算出のための線幅計測を行った。探針形状幅は14.2 nmと求まり、その値を補正して得られた線幅校正値の拡張不確かさは1.0 nmと評価された。主な不確かさ要因を大きい順に並べると、AFM探針の摩耗、スキャナ変位の測長精度、探針形状幅の推定精度、左右のAFM像の結合精度、であった。探針形状幅の補正技術や探針制御技術の最適化によって、従来大きな不確かさ要因であった探針形状幅の推定精度とAFM探針の摩耗に関する不確かさが大幅に低減された。また、線幅校正値は参照線幅と0.2 nmの差であり、これは不確かさに対して小さな値であるため良い一致を示したことが検証できた。本研究によって、傾斜探針AFMを用いた微細な半導体ラインパターンの線幅校正について、従来は約13 nmであった拡張不確かさを1 nmに低減できた。今後の展開として、さらなる不確かさ低減に向けた計測手法の最適化や校正技術の信頼性向上に向けた他研究機関との比較計測を検討している。
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