地球表面から高度60~100kmの領域は下部電離圏と呼ばれ、電離大気(プラズマ)と中性大気が混在し、宇宙空間の中では特異な領域といえる。電離大気は電磁場に拘束される一方、中性大気は電磁場に依存しない運動をする。これにより引き起こされる熱圏-電離圏の結合過程問題、電離圏で突如発生する電子密度の変動や局所高温プラズマ現象は、下部電離圏のプラズマ輸送過程の解明に残された重要課題である。 下部電離圏の電子密度構造は、観測ロケットに搭載した電流プローブ等を用いたその場観測で詳細な観測が可能である。しかし、プラズマ輸送過程の解明には、その場観測だけでは不十分で、より広い面的な観測が必要となる。そのため、本研究では電離圏水平・鉛直構造を観測可能な新たな計測法であるロケットGNSS-TEC法を提案し、これに必要となる観測ロケット搭載GNSS-TEC受信機とアンテナシステムの開発を行った。 GNSS-TEC観測を行うためには、2周波数以上の受信、搬送波位相の出力ができる受信機が必要となる。また、観測ロケットの急加速、高速移動の運動ダイナミックスに対応して、GNSS衛星の追尾を継続できる性能が必要である。この性能要求を満たすGNSS受信ボードを用いて、観測ロケットへのデータ送信に必要な通信回路、電源回路、アンテナ切り替えに必要な制御信号受信機能等を備えた観測ロケット搭載用GNSS-TEC受信機の開発を行った。また、観測ロケットはスピンするため、単一アンテナでは衛星追尾が中断される。そのため、常にGNSS衛星を受信できるアンテナシステムの検討を行い、ロケット側面に6つ、開頭部に8つのパッチアンテナを搭載し、開頭前後でアンテナを切り替えるシステムを開発した。受信機とアンテナシステムを模擬ロケット構体に搭載して回転試験を行い、ロケットGNSS-TEC観測に必要な性能を有することを確認した。
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