研究課題/領域番号 |
16K18131
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研究機関 | 八戸工業大学 |
研究代表者 |
迫井 裕樹 八戸工業大学, 大学院工学研究科, 准教授 (30453294)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 耐久性 / 複合劣化 / 塩分浸透 / 凍結融解 |
研究実績の概要 |
積雪寒冷地域におけるコンクリート構造物は,その気象的特徴から凍害と塩害の複合劣化を受けやすい環境にある。研究代表者の既往研究において,凍結融解環境での塩化物イオン浸透性は,温度一定環境におけるそれよりも促進されることがこれまでに明らかとなっている。これは凍結融解作用に伴う外部からの水分移動や硬化体内部での凍結性状の差異によるものと推察されているが,詳細なメカニズムの解明には至っておらず,凍結融解環境における塩化物イオン浸透の促進メカニズムを明らかとすることを本研究の目的としている。 平成28年度の検討において,まず塩化物イオンが浸透した硬化体中において凍結融解作用に伴う凍結性状の差異を確認することを目的とした要素試験を行った。硬化体中の塩化物イオン濃度が既知となるよう調整したNaCl溶液を用いて,塩化物イオン濃度の異なるφ100×10mmの薄片試験体を作製した。作製した供試体を用いて,凍結融解環境における潜熱の測定を行い,潜熱積算温度の違いから凍結性状(凍結水量)の差異について検討を行った。その後,円柱供試体を用いて,NaCl溶液を試験溶液とした一面凍結融解試験を実施し,試験面から異なる深さ位置における潜熱発生状況および潜熱積算温度から硬化体内部の凍結性状の違いについて検討を行った。 検討結果より,凍結潜熱が確認される温度は硬化体中に含まれる全塩化物イオン濃度により異なることが確認された。また,潜熱積算温度から推定される凍結水量は,硬化体中の全塩化物イオン濃度が高いものほど,少ないことが明らかとなった。これらの結果から,塩化物イオン存在下で凍結融解作用を受けた際,硬化体内部の塩化物イオン濃度分布により凍結水量に差が生じ,未凍結水の移動およびそれに伴う塩化物イオンの移動が生じることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
積雪寒冷地域におけるコンクリート構造物は,その気象的特徴から凍害と塩害の複合劣化を受けやすい環境にある。研究代表者の既往研究において,凍結融解環境での塩化物イオン浸透性は,温度一定環境におけるそれよりも促進されることがこれまでに明らかとなっている。これは凍結融解作用に伴う外部からの水分移動や硬化体内部での凍結性状の差異によるものと推察されているが,詳細なメカニズムの解明には至っておらず,凍結融解環境における塩化物イオン浸透の促進メカニズムを明らかとすることを本研究の目的としている。 平成28年度の検討において,まず要素試験として,塩化物イオン濃度の異なるφ100×10mmの薄片試験体を用いて,凍結融解環境における潜熱の測定を行い,潜熱積算温度の違いから凍結性状の差異(凍結水量の差異)について検討を行った。その後,円柱供試体を用いて,NaCl溶液を試験溶液とした一面凍結融解試験を実施し,試験面から異なる深さ位置における潜熱発生状況および潜熱積算温度から硬化体内部の凍結性状の違いについて検討を行った。 平成28年度の検討より,凍結潜熱が確認される温度は硬化体中に含まれる全塩化物イオン濃度が3kg/m3時に最も低い値を示すことが明らかとなった。また,潜熱積算温度から推定される凍結水量は,硬化体中の全塩化物イオン濃度が高いものほど,少ないことが明らかとなった。つまり,凍結融解環境において,硬化体内部の塩化物イオン濃度により凍結水量の違いが生じ,硬化体内部で未凍結水の移動およびそれに伴う塩化物イオンの移動が生じることから,凍結融解環境下での塩化物イオン浸透が促進されるものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の検討において,塩化物イオン濃度と凍結融解環境における硬化体内部の凍結性状の違いついて検討を行った。今後,凍結融解作用を受ける以前に塩化物イオン浸透を生じ,硬化体内部において塩化物イオン濃度勾配を生じたコンクリートに対して,同様の検討を行う予定である。 供試体作製後,凍結融解作用を受ける前,事前に塩化物イオン浸透試験を行い,硬化体内部の塩化物イオン濃度勾配を生じさせる。その後,試験面を除く全ての面を断熱材で覆い,一面凍結融解環境として暴露を行う。暴露期間中,試験面から異なる深さ位置に設置した熱電対を用いて,凍結融解に伴う各深さ位置での潜熱発生状況等より硬化体内部での凍結性状の差異を計測する。所定の期間暴露後,試験面から10mm間隔で採取するサンプルを用いて全塩化物イオン濃度分布の測定を行い,凍結融解環境への暴露前後の塩化物イオン濃度分布の違いを検討する予定である。 硬化体内部の凍結性状の差異は,塩化物イオン濃度だけでなく,硬化体内部の細孔特性にも依存することが考えられるため,全塩化物イオン濃度分布と併せて,細孔特性の測定も行い,寒冷地域におけるコンクリートの塩化物イオン浸透性に対する凍結融解温度条件の影響について検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該研究の実施において発生する廃材・廃液処理を当初予算に計上していた。しかし,分析後に発生する処理が必要となる廃液量が当初予定の量よりも少なく抑えられたため,経費の効率的使用を考慮し,次年度の廃材・廃液と併せて処理するよう計画変更を行ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度,塩化物イオンの事前浸透を行ったコンクリートを対象とした検討を進める予定であり,前年度同様,分析後に処理が必要となる廃材・廃液が発生する。特に,今年度の研究計画においては,前年度よりも多くの廃材・廃液が発生する予定であることから,前年度の廃材・廃液と併せて今年度一括して処理を実施する。
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