本研究では,地震などによる動的繰り返し荷重を受ける鋼・コンクリート接合部を対象とした残存耐荷性能を定量的に評価可能な指標を提案することを最終目標としていた. 今年度は,まず昨年度に実施したあと施工アンカー定着部の静的せん断繰り返し載荷試験に引き続き,動的せん断繰り返し載荷試験を実施した.具体的には,載荷方法を単調載荷,漸増載荷(片振りと両振り)の3種類変え,動的載荷速度によるせん断繰り返し載荷試験を実施した.その後,静的引抜き載荷試験を実施し,動的繰り返しせん断載荷試験による影響について分散分析により検討した.その結果,荷重-変位関係における初期剛性や最大荷重,さらに最大荷重後の減少率に着目すると,初期剛性や最大荷重に対する載荷方法の影響は顕著にみられなかった一方で,最大荷重後の減少率は漸増繰返しによる両振り載荷が,他の載荷方法に比べて急激に荷重が低下し脆性破壊する危険性が高いことが分かった. 次に,ボルト定着部の損傷度の把握に向けた非破壊試験方法の適用に関する検討では,昨年度に実施した非接触式超音波試験によるデータの有用な波形処理方法について模索した.その結果,各周波数のピーク間距離を平均処理した波長と周波数により算出した伝播速度と,各周波数の水平時間の差から求めた個々の波長と周波数により算出した伝播速度の2種類でひび割れを評価したところ,後者の方が前者に比べてひび割れを精度良く評価可能であることを確認した. 最後に,FEMによる解析的検討では昨年度に実施したボルト定着部の静的引抜き解析から,境界条件が異なる場合に実験結果と解析結果で乖離が生じた.そのため,今年度は目標を下方修正し,境界条件が異なるボルト定着部の耐荷性能を定量的かつ精度よく評価するための検討を試みた.その結果,付着特性を模擬した力学モデルにコンクリートの静水圧による影響を考慮することが有用であることを確認した.
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