本研究ではバングラデシュ僻地の乾期水不足解消を目標に、三角型太陽熱淡水化装置(TrSS)を学術面と実用面の両面から検討を行っている。平成31年度は①昨年度に導入したTrSSの維持管理状況を調べるとともに、②住民からのヒアリングなどを考慮してTrSSサイズや素材を再設計・再選定した。また③改良したTrSSを再度導入して造水量を調査するとともに、④TrSSによる塩性地下水(あるいはため池のなどの表流水)の水質改善効果、をそれぞれ行った。 ①に関して、住民自らが製作から使用、維持管理までを目標としており、現地踏査の結果、使用時期ではない雨期においても住民がTrSSを適切に保管されていることを確認した。②同時に、昨年度使用した現地のローカルマーケットで購入したフィルムは安価であるものの、劣化が著しく早いことが確認されたため、日本製の代替品を使用した。なお、サイズに関しては1.5mとし、住民が取水しやすいように一部設計を変更した。③造水量の調査は2020年3月に予定されていたが、新型コロナウィルスの影響で渡航できず、また対象漁村でも誤った情報が一部流れており、造水量の調査を中断せずるを得なかった。したがって、造水量の正確な情報は得られていないが、研究協力者からの判断では例年と概ね同等程度の造水量が得られているとのことである。④に関して、海水を用いて室内蒸留試験を行った結果、従来の大腸菌の殺菌効果に加えて、主要な海水成分を除去でき、蒸留水はいずれの値もWHOあるいは日本の水質基準値以下であることを確認した。 以上、4年間の研究を実施して、テロの影響や新型コロナウィルスの影響等により、研究の中断などを余儀なくされたものの、得られた知見から筆者らが考案したTrSSはバングラデシュ僻地の乾期水不足解消の一助となりうることが分かった。
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