本研究では,クルーズ客の方を対象として行ったアンケート調査のデータを用いて,クルーズ客が訪れた訪問地や観光していた時間を変数としてクルーズ客の観光行動パターンを類型化し,各パターンによって消費額や満足度,再訪意思にどのような差があるのかを検証した.その結果,クルーズ客は寄港地での観光行動の仕方によって大きく4つのグループに分けられることが明らかとなった.各グループにおいて,「合計観光時間」や「訪れた訪問地数」の値が大きく積極的に観光する乗客と,それらの値が小さく消極的な観光をする乗客とでは,「1人あたり合計消費額」および「再訪意思」の値に統計的に有意な差が生じているため,積極的に観光をする乗客の割合が増えていくことが,クルーズを誘致する寄港地の立場としては望ましいと言える. また,積極的な観光をするか,消極的な観光をするかは,乗客の個人属性や旅行経験等によって規定されないことも本研究の分析の結果明らかになったことである.積極的に観光をするクルーズ客は,寄港地観光における「情報提供の充実度」の満足度が他の乗客タイプよりも高いことが統計的に証明されたため,観光案内所の増設や観光パンフレットの無料配布等を試みることによって,寄港地におけるクルーズ客への情報提供の充実度が高まり,積極的に観光を行うクルーズ客を増加させることが可能であることが示唆された.様々な嗜好のクルーズ客が存在しており,それぞれに満足感を与えるような寄港地観光の在り方が求められている.多様な乗客に満足感を与え,寄港地での消費を促すように対策を講じることが,クルーズ船の寄港による経済効果を増大させる上では重要である.また,消極的な観光をする人の消費を促すことも,寄港地が受ける経済効果を期待する上で重要である.具体的には,港の周辺の観光資源の開発,もしくは中心街・中心観光地へのアクセスバスの運行などが有効である.
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