研究課題/領域番号 |
16K18176
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研究機関 | 呉工業高等専門学校 |
研究代表者 |
谷川 大輔 呉工業高等専門学校, 環境都市工学分野, 助教 (40714283)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 天然ゴム製造工場廃水 / 嫌気性バッフル反応器 / 下降流懸垂型スポンジ / 温室効果ガス排出量 / ゴム回収 / 窒素除去 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、廃水処理システム(ABR-DHSシステム)内での天然ゴム製造工場廃水中の残存ゴム分の回収および後段のDHS(下降流懸垂型スポンジ)リアクター内での窒素除去に対する空気供給量の最適化をおこなった。 当初の予定では、ABR(嫌気性バッフル反応器)内でのゴム回収を想定していたが、ABRの水理学的滞留時間(HRT)の延長およびABRへのゴムの植種をおこなったところ、ゴム回収能の向上はあまり確認されなかった。一方、、DHSの最上段(3段構成中)のスポンジ担体を取り出し、ゴムを植種したところ、当該部位で速やかにゴムの凝固・蓄積が確認され、ゴム回収能の向上が確認された。したがって、後段のDHS上段でゴム回収をおこなうことが最適であることが示唆された。 DHS内での窒素除去に対する空気供給量の影響評価では、DHSへの空気供給量を4 L/minから無曝気条件まで空気供給量を段階的に減少させ、DHS内での窒素の挙動を調査した。その結果、DHS内における窒素除去速度は、空気供給量の増加に伴って90 mgN/日から150 mgN/日まで増加していた。一方、窒素除去に対するアンモニア揮散の割合は、空気供給量の増加に伴い、9.5%から38.5%まで増加していた。また、アンモニア揮散の影響を除いた窒素除去速度は、無曝気条件と最大空気供給量(4 L/min)の条件でそれぞれ、87.6 mgN/日と95.5 mgN/日であった。いずれの空気供給量の条件においても、DHS処理水中の硝酸および亜硝酸態窒素濃度はほとんど残存しておらず、アンモニア酸化によって生成した硝酸および亜硝酸はDHS内で脱窒反応に利用されていることが示唆された。また、DHSからの温室効果ガスであるメタンや亜酸化窒素の生成は確認されなかった。したがって、無曝気での運転をDHSにおける窒素除去の最適条件として提案することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度ではABRにおける最大許容有機物負荷(OLR)3.1 kgCOD/(m3.d) において、システム全体のCOD除去率98.5%を達成し、同条件下での亜酸化窒素およびメタンの排出も確認されていないことから、ABRの最適な運転条件を明らかにすることができた。一方で、当初の予定であったABRにおけるメタン回収率80%は未達成となったが、これは廃水中の残存ゴム分の分解がほとんど起きなかったことに起因しており、ゴム分として回収することで対処可能となった。また、廃水中に酢酸が高濃度に含まれているにも関わらず、ABR内での酢酸資化性メタン生成古細菌の存在比および活性が低く、水素資化性メタン生成古細菌と有機酸分解細菌の共生系が主として有機物の分解に寄与していることが示唆された。 平成29年度ではDHS内での窒素除去における最適な空気供給量の設定およびゴム回収条件の設定が可能となった。また、いずれの空気供給量においても亜酸化窒素の生成は確認されていなかった。DHS保持汚泥中の微生物解析をおこなったところ、硝化細菌、脱窒細菌だけでなく、ゴム分解細菌および窒素固定細菌が高頻度の検出されており、これらがDHS内の窒素除去および有機物分解に寄与していることが示唆された。 以上のように、当初の目標を概ね達成できており、当初の計画通りに進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度の当初計画では、DHS処理水をABRに循環させることで脱窒反応を進行させることとなっていたが、平成29年度までの結果から、DHS内で脱窒反応が進行しており、DHS処理水中に硝酸および亜硝酸がほとんど存在していないことから、DHS処理水のABRへの循環が脱窒反応を進行させないことが懸念される。また、DHS内で脱窒反応が進行しているものの、処理水中のアンモニア濃度は200 mgN/L程度とまだ高濃度に残存しているため、窒素除去は不可欠である。そこで、平成29年度より、後段にもう1基、硝化-脱窒用のDHSを増設し、DHS処理水と炭素源を供給することで、窒素除去率60%程度を現状で達成している。平成30年度は、硝化-脱窒用DHSの最適化をおこなうことで、最終処理水質の排水基準の達成を目指す。 また、DHS保持汚泥中の微生物解析結果から、DHS内に亜酸化窒素能を有する脱窒菌や、亜酸化窒素が大量に放出されている開放型嫌気性廃水処理システム内から高頻度で検出された従属栄養型のアンモニア酸化細菌が検出されている。平成29年度には、DHS内から亜酸化窒素の生成は確認されておらず、また、DHS内に窒素固定菌が存在していることが明らかになっていることから、この窒素固定菌が生成された亜酸化窒素を固定していることが推察されるため、DHS内における窒素固定菌の機能評価もおこなう予定である。 ABR-DHS-硝化-脱窒DHSシステムの運転条件の最適化をおこなった後、現地の廃水処理システムやこれまで報告されている閉鎖型の廃水処理システムとの廃水処理性能および温室効果ガス排出量の比較をおこない、提案システムの優位性を提案する。
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