研究課題/領域番号 |
16K18196
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井上 尚久 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特任研究員 (00755803)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 音響振動連成 / 窓システム / サッシ / 音響透過損失 / 遮音 |
研究実績の概要 |
本研究はサッシ・板硝子から構成される窓システムを対象とし,音響振動連成数値解析による音響透過損失の数値予測システムの構築及び窓システムの音響性能の向上を目標としている。 初年度は窓システムの各部位のモデル化に関する課題群の内,プログラムを新規に実装する必要性がある課題を優先的に執り行った。具体的に,設定した課題の中から,シェル要素の実装,隙間の考慮の方法,粘弾性の考慮の順で課題を行い,概ね解析プログラムを完成させた。 シェル要素については解析精度上重要となる曲げ板要素について,近年の先行研究から,いくつかの精度の良い要素を実装した。実装後,三次元弾性体要素と解析結果を比較し,いずれの要素でも単純な形状では十分な精度が得られていることを確認している。実際のサッシ枠形状における解析精度の検証については当初の予定通り,第2年度に行う。 隙間の考慮については隙間の形状に応じた流れ抵抗の理論的算出法を整理した。これについては解析に先立って流れ抵抗を算出する必要があるが,通常の音場に対するFEMへの入力パラメータとして反映できるため,実装は非常に単純である。ここで整理した隙間モデルは共鳴器のモデル化にも応用でき,第2年度のサッシの高性能化への検討にも利用可能である。また,支持材の粘弾性の考慮についても,同様に通常の弾性体解析のFEMへの入力パラメータの変更で対応可能であった。適切な粘弾性モデルの選択については第2年度のモデル構築にて行うこととした。 初年度の,音響透過損失の実測における変動要因のひとつであるニッシェ効果について,JIS/ISOで規定される開口内に段差を有するスタガードタイプを取上げ,詳細な数値解析的検証を行った。その結果,段差のないニッシェタイプと比較し,スタガードタイプではランダム入射値ではニッシェ効果が緩和されるものの,入射角依存性が大きいことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度では次年度での検討の基盤となる解析プログラムを概ね完成させることができた。当初設定した課題の内,隙間のモデル化及び粘弾性モデルについては基本的な妥当性の検証に留まった。これらは次年度に計画しているサッシの解析モデルの構築においてまとめて行うこととした。一方,次年度に予定していた遮音メカニズムの把握に向けた分析・可視化方法の指針を定めることができており,現在までの達成度はおおむね順調といえる。研究成果の一部は2編の学会発表論文として公表しており,今年度は学術誌の査読付きとして投稿予定である。
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今後の研究の推進方策 |
第2年度では解析モデルの構築及び,サッシの高性能化を課題として設定している。サッシ音響性能の向上については,遮音メカニズムの把握が重要となる。遮音メカニズムは解析モデルの妥当性検証の過程で,同時に把握することができる。従って,初年度に残した課題及び次年度に設定した課題の内,解析モデルの構築が最重要となる。これについては大学院生による計算補助を1名増員し,解析モデルの構築に関する複数の課題を並行して集中的に取り組むこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度では当初の予定として計算環境としてデスクトップPCや計算用ワークステーションを計上したが,研究の基本となるプログラムの開発において,小規模な問題設定である程度妥当性を確認することができた。これらは,補助に当たった大学院生の私物のラップトップPC程度で行うことが出来た。また,計算機性能は現在でも年々向上している現状を踏まえ,今年度は計算機の購入を控えることとした。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度ではサッシの実態に即した形状や物性を反映した問題設定を行うため,計算の規模はかなり大きくなることが予想される。従って当初の予定通り,比較的大きな規模の計算機を購入する予定である。
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