研究実績の概要 |
本研究は、オフィスの運営側と使用者側に対して大規模調査を行うことで、建築設備システムの不確実性の源である「実建物の使われ方」を明らかにし、リスク評価を行う上で不可欠となる建物使用条件の確率モデルを開発・整備することを目的とするものである。 2017年度は2016年度に実施したオフィスの運営側と使用者側のアンケート調査結果を用いて、テナント属性の確率モデルの開発に取り組んだ。まず、産業別に雇用形態別・職業別の就業者比率と年齢別の就業者比率を推定するとともに、始業時刻、昼休み開始時刻、昼休み時間の頻度を計算した。これらの情報と2016年度に開発した確率モデルを統合し、テナント属性を確率的に決定する方法を示した。 さらに、本研究の最終目標である「モンテカルロ法を用いた省エネ投資リスクの定量化と評価法」についても検討を進めた。外部気象条件、執務者行動、テナント属性、テナント入退去に関する確率モデルと建築設備エネルギーシミュレーションモデルとを統合し、20 年間×1,000 回の計算を行い、省エネルギー化投資別の水道光熱費削減額の時系列を作成した。 調達金利を割引率として用いて水道光熱費削減額の現在価値を求め、1,000 個の現在価値の分布を求めた。下方リスクの測度として期待ショートフォールを採用し、省エネルギー化投資別のリスクプレミアムを計算することで、それぞれの還元利回りを推定した。省エネルギー化投資の初期投資額を査定して上記の水道光熱費削減額と組み合わせてIRR を求め、1,000 個のIRR の分布を求めた。現代ポートフォリオ理論を適用することで、省エネルギー化投資の分散共分散行列にもとづいて省エネルギー化設備への最適投資配分比を決定する方法を明らかにした。 以上の研究成果は空気調和・衛生工学会の論文集に2本の論文を投稿しており、1本は掲載済、1本は査読進行中である。
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