研究課題/領域番号 |
16K18207
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
高取 千佳 名古屋大学, 環境学研究科, 助教 (10736078)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 緑地 / 多面的機能 / 管理作業量 / 人口減少 / 適正配分 / マトリクス / 多主体連携型マネジメント |
研究実績の概要 |
大都市圏都心部では、近年ヒートアイランド現象、大規模災害の発生といった環境問題が顕在化しており、土地の自然立地的特性を読み解き、緑地の多面的機能を活かしながら自然共生型の都市空間を形成することは、21世紀の根幹的な課題である。しかしながら、人口縮退時代に突入し、基礎自治体の財政難や少子高齢化による緑地管理の担い手減少に伴い、緑地の減少や質的劣化が生じてきている。本研究は、人口構成の動態を踏まえ、緑地の量・質の双方から多面的機能(サービス)と管理コストを適切に評価・配分する緑地計画手法論を構築することを目的としたものである。平成28年度では、名古屋都心部を対象に、(1)公有地・民有地ごとの街区スケールで、微小地形、緑地の質の観点から微細な環境の緑地類型、(2)典型的な類型に対し、多面的機能・管理コストの双方からの指標の分析・設定を行った。名古屋市全体の緑地類型と管理コストの解明に対しては、平成28年度都市計画学会論文集においてまとめられ、出版された。また、平成29年度に開催される国際会議Dresden Nexus Conference 2017において、発表・共同研究者との交流予定である。また、(3)具体的対象地として、既成市街地の高齢化、空家の増加や緑地の管理不足による荒廃が課題となる典型的な地区である、名東区藤巻地区を対象に、住民と協力し、緑地に対する文化的サービス(景観選好性)と管理作業量のアンケート調査を実施した。得られた成果は、住民のまちづくり検討会において発表され、平成28年度のまちづくり検討会の成果としてまとめられ、パンフレットとして出版された。またこの成果については、平成29年度の日本都市計画学会学術論文として投稿予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度では、(1)公有地・民有地ごとの街区スケールで、微小地形、緑地の質の観点から微細な環境の緑地類型、(2)典型的な類型に対し、多面的機能・管理コストの双方からの指標の分析・設定、(3)多主体連携型の都市環境マネジメントの社会実装、(4)将来人口予測に基づく不足管理作業量の算出、の四点において、当初の計画以上に先行し、学術論文・発表・地域での成果還元が行うことができた点で、順調に進展している。特に、(3)においては、平成29年度以降に行う予定であったが、(1)(2)の成果を基に、名東区藤巻地区において、まちづくり活動に中心的に関わらせていただく立場となったことから、地域におけるまちづくり検討会において発表を行い、住民・NPO・行政が連携して行う手法について、先行して知見を得ることができた点は大きな成果である。また、当初の計画にはなかったが、来年度以降の活動においても、緑地管理組織の立ち上げと実践につながることができた。また、(4)においても、名古屋市における小学校区単位での将来人口予測を解析ソフトMATLABを活用し先行して行うことができ、(1)(2)の分析結果と合わせた成果が日本都市計画学会の学術論文として出版されたことが一つの成果である。さらに、これらの成果を、海外の協力研究機関の研究者とも交流・発表を行い、来年度以降の共同研究を行うことに発展している。しかし、(1)緑地類型の詳細化(微地形と緑地のボリューム・階層性を合わせた類型化)と、(2)緑地の多面的機能の指標については、既往研究レビューを行っている段階で、まだ体系化が行われておらず、来年度以降の課題として残されている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、(1)緑地類型では、さらに典型地区において、DSMデータの購入により、緑地の三次元的なボリュームや階層性の把握を行いさらなる微細な環境を類型化する予定である。また、(2)緑地の多面的機能の指標の体系化についても、現在は、主に文化的景観の観点に主眼を置いて分析を進めているが、既往研究をさらにレビューを行い、気候緩和・雨水流出抑制・防災の三機能に対して、都市域の緑地が有する機能を体系化してゆく必要がある。気候調整においては、名古屋市域での気候評価データについては、名古屋大学の気象の専門家による既往研究を参照させて頂く。雨水流出抑制に関しては、応募者の所属研究室において、GISでの雨水流出シミュレーションモデル・土地被覆別の流出量の実測結果が蓄積されている。これらを活用し、既往研究を参照した上で、上記で行ったマトリクス類型(微小地形・土地被覆)別の雨水流出抑制の指標を体系化する。防災については、震災・津波被害(南海トラフ地震)、土砂災害被害の危険度データが基礎自治体(県・市)において整備されている。これを提供頂き、マトリクス類型別に指標として整理する。また、緑地の管理作業量については、オンラインアンケートの実施により、一般の方900名の、あらゆる緑地に対する年間の管理作業量の過去の経験と、将来の意欲に対してのデータを入手できたため、さらなる解析を進める予定である。(4)また、人口減少化における将来可能な緑地管理の人口・時間の算出と、適正配分の手法の構築についても、今後三年間をかけて行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、購入予定であったDSMデータ(緑地の質の評価に用いる)の購入が、来年度に変更となったこと、また、成果発表の国際会議への出席が、来年度に変更となったことから、30万円程度持ち越しすることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度の繰り越しによる、次年度使用額については、DSMの購入費、国際会議Dresden Nexus Conference 2017への参加・出張費に使用する予定である。
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