最終年度はミャンマーのヤンゴン市、および台湾と韓国において現地調査を実施した。 ミャンマーでは、民政移管により社会システムが変わり、都市開発が急速に展開していることを背景に、遺産保全に取り組む地元NGOであるYangon Heritage Trustへのヒアリングと市街地踏査を行った。ヒアリングは、社会経済状況の変化が都市の歴史的環境に与えた影響、保全のための施策・活動、都市社会における保全の取組みの受け止め、官民の関わり等をトピックとした。長く軍事政権が支配してきたミャンマーでは、今なお法律や行政計画が大きな意味をもたないことも多い反面、NGOによるアドボカシーを中心とした取組みや直接的な対話は時に高い有効性をもつといった状況も明らかになった。 韓国と台湾では、東南アジア諸国に比べ制度整備が進んでいることから、都市の歴史的環境保全に関する制度調査を主眼とした。特に、変化を前提とする都市部での歴史的環境保全を進めるうえでは、文化財保護に依らない手法をいかに用いるかも重要になると考えられることから、専ら保全を目的とする制度のほか、都市計画関連制度の活用、および文化財保護行政と都市計画行政の連携状況等を主たる調査内容として設定した。いずれの国でも、歴史的環境保全制度と都市計画制度の専門家のほか、複数の自治体の文化財部局と都市計画部局においてヒアリングを行った。両国ともに、文化財行政と都市計画行政の協働の枠組みが法制度上規定されており、運用においても、比較的近い距離で両者が連動している様子が伺われたが、こうした異なる部局間の協働が、変化、発展する社会において保全を進めていくカギになることを再確認することができた。
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