本研究は、近代化遺産を文化的景観の概念を用いて総合的に評価することを目的として実施し、主に以下の研究成果が得られた。 福岡県福岡市では、九州大学という近代化遺産を核として箱崎という地域を文化的景観として評価する可能性について、空間的な変遷と箱崎に対する外的・内的なイメージの分析を元に明らかにした。また、北海道美瑛町では、町全域・各地域(開拓された年代によって土地区画の特性が異なる)・個別の農家という3つのレベルから、空間の変遷と生活生業と景観との関係性について明らかにし、近代開拓により形成された農業景観の文化的景観としての評価を行った。本年度は美瑛町における研究成果の一部を学会にて発表したことに加え、地域の文化財や文化資源を総合的に評価し整備活用に活かす歴史文化のマスタープランといえる歴史文化基本構想を題材に、109の自治体において近代化遺産がいかに面的な広がりをもって評価されているのか、関連文化財群の分析を行った。 また本科研では、文化的景観として評価できる地域においける近代化の評価(近代化遺産の整備に伴う土地利用の変化)についても、岐阜県白川村を中心として研究を行った。荻町地区を対象としては、近代化以前に形成された集落空間における近代化の影響を明らかにするとともに、伝統的な集落景観をリビングヘリテージとして保全する際の課題について明らかにした。加えて本年度は、村内にて最も近代化の影響を受けた平瀬地区などを中心に、近世の集落空間(字絵図の分析)と現在の集落空間との比較を行い、ダム・電源開発という近代化による集落の空間的な発展について明らかにした。また、山口県萩市において近世由来の城下町景観において現地調査を実施し、研究の参考とした。
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