研究課題/領域番号 |
16K18222
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
須崎 文代 神奈川大学, 工学部, 助教 (20735071)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Battersea Polytechnic / Bedford College / 住居衛生 / 大江スミ / 採光 / 換気 / 畳 / ガラス建具 |
研究実績の概要 |
本年度は、まず2017年度までに収集した基礎研究資料『婦人衛生会雑誌』等を用い、住居衛生論の動向についての分析を行った。具体的には資料中の住居衛生関連記述の全体的傾向を整理し、採光、換気、暖房、清掃あるいは台所、風呂、便所等の各室にまつわる言説について傾向を捉え、とりわけ①「畳」の衛生観および②採光と採暖を目的とした「ガラス建具」と住宅の変化について調査分析を進めた。これらの成果は、前者は①’日本生活文化史学会平成30年度大会・総会(但し下記の通り翌年に延期)に、後者は②’2019年度日本生活学会研究発表大会(跡見学園女子大学)および日本建築学会2019年度大会(北陸・金沢工業大学)の計2件を発表予定である。 また大江スミ(旧姓宮川寿美子)の留学先であるBattersea Polytechnic(③)およびBedford College(④)での修得内容について現地調査を行った。③については昨年に引き続きUniversity of Surreyアーカイブ所蔵資料の文献調査を中心に行い、特にスミが衛生学を志向し、住環境に興味を持った背景として同校での教授陣との関わりが推察できることを明らかにした。この内容は2018年度日本生活学会研究発表大会において研究発表を行った。④については、2017年度日本生活学会研究発表大会で発表した成果をふまえ、さらにRoyal Hollowayのアーカイブにて調査を行った。具体的にはスミがBedford Collegeに在籍した当時の衛生学関係の教育内容や時間割を調査したほか、同校の年次報告においてスミが衛生検査員に1906年5月に合格した記録などをオリジナルの資料で確認した。 さらに本研究で明らかにした成果に関して第117回神奈川大学日本常民文化研究所研究会(⑤)および東方学研究国際フォーラム「厠所革命」(中国・広東)(⑥)にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、前年度までに実施した調査の結果を踏まえ、主に以下の3点について調査研究を行った。まず(1)スミの留学先における教育内容およびスミの修得内容の調査を実施した。具体的には、①Battersea polytechnicの教育内容に関して、当時の同校の資料を収蔵するUniversity of Surreyのアーカイブにて文献調査を行い、授業内容や教授陣、スミが修得したと思われる内容等についての情報を収集した。また、②Bedford College for Womanにおける教育内容については、同校の資料を収蔵するRoyal Hollowayのアーカイブにて調査を行い、衛生学のカリキュラムと教授陣、およびスミの修得内容について調査を行った。 次に(2)国内での住居衛生論の動向を把握するため、明治期に設立された最初期の衛生関連機関である大日本婦人衛生会が刊行していた『婦人衛生会雑誌』・『婦人衛生雑誌』を基本史料として、明治・大正期における住居衛生論の言説の全体的傾向と、採光、換気、暖房、給排水、畳の使用、住宅内の各室に関する議論などについて分析を行った。 さらに、(3)スミは帰国後、イギリスでの見識をもとにどのような住居衛生論を展開したのかを、大江の著作の分析から検討した。その結果、著作の内容はイギリスにおける住居衛生論の内容を色濃く反映しつつも、日本特有の生活様式もふまえた内容に適応されたものであったことが明らかとなった。 以上、本研究の開始時点に計画していた基本的な調査研究は本年度内にほぼ全て実行し、上記の通り明らかとなった知見を各学会で発表する予定である。ただし、2018年度に発表を予定していた投稿(日本生活文化史学会大会)が台風による悪天候の影響で実施中止となり翌年度に延期となったことから、本研究の期間延長を申請し受理された。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は上記の各研究発表を行うとともに、延長された一年間の期間を生かし、より発展的な研究の推進を計画する。特に、本研究ではイギリスの近代住宅と社会事業における衛生改良の実践が重要な位置づけであることから、エドウィン・チャドウィックやオクタヴィア・ヒルによる社会改良事業のなかで、住居衛生の改良が実践されたのか等について更なる検討を進める。なお、この点に関して、本研究ではすでにJeffrye Museumに現存する18~19世紀の私立救貧院住宅(Almshouse)を視察し、復元されている居住空間とりわけヴィクトリアン・トイレに代表される水まわり設備や暖房等を確認した。同様に、19世紀イギリスでエベネザー・ハワードにより提唱された田園都市の理論が実践されたレッチワースやウェルウィンについても視察を行い、関連資料の収集や専門家へのヒアリングを行った。次年度はこうした同時代の理論と実践について検討を進める計画である。さらに本年度は、日英双方の研究状況に詳しいサラ・ティズリー博士(Royal College of Art)への面会を実施し、今後の研究協力関係について前向きな検討を行った。この協力をもとに、より積極的に専門家へヒアリングや資料へのアクセスが可能となると見込まれる。 また、スミが留学中に視察した欧米各国の教育・福祉施設について現地調査を行うことを研究計画の一部に含んでいたが、期間、費用の限界性から対象のすべてを現地調査するには至らなかった。しかしながら、延長された1年間の調査研究期間を有効に活用し、可能な限り現地に赴いて現況の確認と資料収集を行う予定である。 最終的には以上を総合し、ホームページ上での研究成果公開と、報告書による研究成果の発信を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度の研究成果発表として投稿していた日本生活文化史学会平成30年度大会・総会が台風による悪天候のため中止となり、投稿済の研究成果は翌年へ延期となった。そのため、本研究は研究機関延長の申請を行い、受理された。 最終年度の支出として計画していた印刷費、発表経費、その他の補足調査費や謝金は、次年度に使用することとしたため、差額が生じる結果となった。
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