二階建ての御殿にみる近世武家住宅の実体と空間の構成

2016 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 16K18223
• 研究機関: 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所
• 研究代表者: 大橋 正浩 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, アソシエイトフェロー (30770763)
• 研究期間 (年度): 2016-04-01 – 2019-03-31
• キーワード: 御殿 / 武家住宅 / 二階建て / 空間構成

研究実績の概要

本研究は、史料や遺構の存在が明らかになっている、江戸時代に建てられた武家住宅の二階建ての御殿を対象に、文書史料などを用いた実証的な検討から空間構成を明らかにすることを目的としている。これを達成するために、2016年度は、将軍や大名の御殿に関する史料の把握・収集および整理をおこなった。
具体的な史料として、江戸城については、都立中央図書館や東京国立博物館所蔵の主要な屋敷図を収集・掲載した書籍が既に発刊されている。それらのうち、二階が確認できる一部の屋敷図については、平面図のトレースと記述内容の翻刻をおこなった。大名の御殿については、報告書・書籍・論文などから、萩藩毛利家の江戸屋敷、富山藩前田家の新御殿、松代藩真田家の新御殿など、二階が確認できる御殿の屋敷図を収集した。
大名の御殿のうち、蓬左文庫所蔵の名古屋城御深井丸新御殿の屋敷図関係については、これまで建築的な視点から分析がされておらず、実見が必要となった。文書調査の結果としては、既出の古写真から二階の存在が明らかになっていた17代慶勝時代の屋敷図はみつからなかった。その一方で、二階については記されていなかったが、10代斉朝時代の新御殿の平面図と取り払い箇所を記した屋敷図が確認できた。
斉朝時代の新御殿は、斉朝の死後、芝の天光院に寄付するために、一切が取り壊されたという。その後、同じ御深井丸に慶勝の居所として新御殿が再建されるのだが、今回確認した屋敷図には、取り払った範囲を示していない箇所もあり、二階を含めた一部の建物は取り払われずに残った可能性も考えられる。以上から、斉朝時代の新御殿の屋敷図と慶勝時代の新御殿の古写真との比較から２つの御殿の関係を明らかにすることで、２階部分を含む名古屋城御深井丸新御殿の実体の一部が解明できると考えられる。

現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

前述のように、蓬左文庫所蔵の名古屋城御深井丸新御殿の屋敷図史料については、実見によって二階に関する情報の有無を確認せねばならなかった。さらに現時点では二階に関する情報が得られていない。以上から、現在までの進捗状況は遅れていると言わざるを得ない。

今後の研究の推進方策

史料調査の継続と分析をおこなう。調査予定としている史料は、旗本・大名家家臣の御殿を中心とした屋敷図史料である。史料そのものの時代や位置づけについて検討をする。分析については2016年度に収集した史料も含め、二階部分が一階のどの位置に重なるかを検討し、空間構成を検討する前段階として二階を含めた御殿全体の室構成について検討する。

次年度使用額が生じた理由

史料調査に時間をかけたため、屋敷図のトレースや文献史料の翻刻など、史料の整理・分析に伴うアルバイト作業員を雇うことが出来なかった。

次年度使用額の使用計画

次年度については、旗本に属する交代寄合美濃衆高木家の古文書史料である、高木家文書（名古屋大学附属図書館所蔵）などの現地調査に当たる予定である。調査は滞在による現地調査を14日程度予定しており、この経費に充てる。また、屋敷図のトレースや文献史料の翻刻作業など、アルバイト作業員を雇って行うこととする。