研究実績の概要 |
本研究課題の当初の目的は、結晶化の核生成及び核成長段階がガラス内部のどの領域(α,β緩和領域等)に起因するのかを粘弾性測定を通じて明らかにすることであった。 前年度の後半で、Zr50Cu40Al10金属ガラス試料を過冷却液体温度域内(ガラス転移温度の1.05倍)で2回熱処理した試料において、初期結晶化(規則化)が生じていることを示す痕跡を試料内部に確認し、核生成段階の試料を準備することに成功した。そこで本年度の初めに、その粘弾性測定を行ってみたが、アモルファス状態を完全に維持した試料(過冷却液体温度域での熱処理は1回で、ただ同じ最終冷却速度で冷却した試料)と比べて、残念ながらα、β緩和領域のシグナルに大きな変化は認められなかった。また、核成長過程に関しては、Pd42.5Cu30Ni7.5P20金属ガラス試料を用い、それを過冷却液体温度域の比較的高温域(ガラス転移温度の1.09倍)で2回の熱処理を行うことで、アモルファス相を残留させつつ結晶相が成長した試料を作製することに成功した。ただ、こちらの粘弾性測定結果でも、アモルファス状態を完全に維持した試料(熱処理は2回だが、熱処理温度にガラス転移温度の1.05倍を選択し、最終冷却速度を統一した試料)と比べてシグナルに大きな変化は見られなかった。 このように、当初、期待していたような結果は得られなかったが、結晶化を残留アモルファス状態から評価するという新しい発想に着目したことで、アモルファス状態がエネルギー、体積、構造的にほぼ等しく見えていても、その内部の結晶化状態は大きく異なることがあり得るという、これまでの研究では一切、議論、検討されてこなかった新たな知見を得ることができた。この発見は、今後の金属ガラスの結晶化研究に大いに役立つものと考えられ、本研究課題の一つの大きな研究成果として最終的に論文にまとめることができた。
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