研究課題/領域番号 |
16K18228
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
池田 裕治 京都大学, 構造材料元素戦略研究拠点ユニット, 特定助教 (90710450)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 形状記憶合金 / 第一原理計算 / 格子振動(フォノン) / 非調和効果 / 不規則合金 |
研究実績の概要 |
形状記憶合金における変形メカニズムは学術・応用の両面で興味深い.特に有限温度下での形状記憶合金の特性解析には格子振動(フォノン)の寄与を考慮することが必須である.しかし,第一原理計算に基づいた格子振動特性解析の多くは調和近似に基づいており,高温での母相の構造安定性を説明できないという問題点がある.また,B2結晶構造母相を持つ形状記憶合金の多くは高温で規則・不規則変態を示すが,その解析には不規則原子配置における格子振動特性の解析手法が必要となる.すなわち,形状記憶合金の格子振動特性を第一原理に基づき系統的に解析するためには,非調和効果を取り入れ,また不規則原子配置を扱えるような手法の開発が必要不可欠である. 本研究では,第一原理分子動力学法に基づき格子振動の非調和効果を取り入れ,Ti-Ni系をはじめとする形状記憶合金について,母相の構造安定性の温度依存性や,母相の規則・不規則変態温度への格子振動の寄与といった,形状記憶合金の諸性質を第一原理に基づき解析し明らかにする.そのため,非調和効果を取り入れ可能な,不規則原子配置を持つ系におけるフォノン解析を可能とする手法開発を行う.本研究により,形状記憶合金の変形メカニズム解明の進展が期待されるとともに,計算機上での合金設計も実現の可能性が高まる. 本年度は特に,不規則合金におけるフォノンスペクトルの第一原理に基づく解析を可能とするband unfolding法の開発・実装を行なった.また,本手法を二元系不規則合金に適用し,特定のフォノンモードが不連続的となる,分裂するなどの特異な振る舞いを示すことを明らかにした.また,本手法は形状記憶合金にとどまらず,一般の不規則合金に適用可能であり,発表論文はPhysical Review BにおいてEditors' suggestionとされた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では,本年度は形状記憶合金母相の動的安定性に焦点を当てる予定であったが,一般性の高さから,高温不規則原子配置における格子振動特性の解析手法開発を優先することとした.本手法による成果は本年度出版され,不規則原子配置における格子振動の特異な振る舞いを明らかにすることができた.動的安定性解析に必要な非調和効果の取り入れは次年度に既存のプログラムを利用することにより可能であり,実装のための時間的コストはかからない.そのため,当初の目標は次年度終了時において達成可能であると期待しており,本研究は順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
格子振動の非調和効果を取り入れた計算に本格的に着手し,形状記憶合金母相の構造安定性に対する寄与について解析を行う.具体的には,B2結晶構造母相を持った形状記憶合金に注目し,第一原理分子動力学法により非調和効果を取り入れた格子振動特性の計算を行う.様々な温度下での計算を行い,母相がどの温度で構造安定となるかを以下の観点から定量的に明らかにする.第一に,分子動力学計算における原子位置の時間平均を解析する.指定した温度下で母相が構造安定であれば,原子位置の時間平均は母相の平衡位置に一致することが期待される.第二に,格子振動の非調和性を考慮したフォノン振動数を解析する.分子動力学計算で得られる原子速度の自己相関関数のパワースペクトルを各格子振動モードに分解して解析することで,非調和効果を取り入れたフォノン振動数が得られる [mode decomposition法;T. Sun et al., Phys. Rev. B 89, 094109 (2014)].様々な温度下でフォノン振動数が全て実数となるか否かを調べることで,母相の構造安定性の温度依存性を明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の京都大学大型計算機における新システム移行において,新計算機搬入元の火災により,施設が予定していた時期から移行が3ヶ月延期された.そのため,当初計画していた計算機能力の使用が不可能となったので,次年度の利用に当てることとした.
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次年度使用額の使用計画 |
京都大学大型計算機使用料を計上している.大型計算機は主に第一原理分子動力学計算の実行に使用する.
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