形状記憶合金における変形メカニズムは学術・応用の両面で興味深い.形状記憶合金の熱力学特性解析には格子振動(フォノン)の寄与を考慮する必要がある.しかし,第一原理計算に基づいた格子振動特性解析の多くは調和近似に基づいており,高温での母相の構造安定性を説明できない.また,母相の高温での規則・不規則変態を解析するには不規則原子配置における格子振動特性の解析手法が必要となる.すなわち,形状記憶合金の格子振動特性の系統的解析のためには,非調和効果を取り入れ,また不規則原子配置を扱える手法の開発が必須である. 本研究では,形状記憶合金における格子振動の諸性質に対する寄与を第一原理に基づき解析する.当初は格子振動の非調和効果の解析を主目的としていたが,より新規性の高い,不規則合金のフォノン解析のための手法開発および適用に重点を置くこととした.本研究により,形状記憶合金の変形機構解明の進展が期待され,計算機上での合金設計も実現の可能性が高まる. 平成28年度は,不規則合金におけるフォノンスペクトルの第一原理に基づく解析を可能とするband unfolding法の開発・実装を行なった.また,本手法を二元系不規則合金に適用し,特定のフォノンモードが不連続的となる,分裂するなどの特異な振る舞いを示すことを明らかにした. 平成29年度はまず,band unfolding法を様々な合金系に適用することを試みた.結果,高エントロピー合金や磁性不規則合金についても上記の特異な振る舞いが見られることを示した.また,元素や結晶構造の組み合わせに対し,そのエネルギーおよび構造特性から形状記憶効果を持つもの予測する手法を作成した.本手法を数千に及ぶ合金を対し適用しスクリーニングすることに成功した.
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