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2018 年度 実施状況報告書

強酸化性雰囲気におけるプロセッシングによるプロトン伝導性酸化物の粒界抵抗制御

研究課題

研究課題/領域番号 16K18232
研究機関国立研究開発法人物質・材料研究機構

研究代表者

三好 正悟  国立研究開発法人物質・材料研究機構, エネルギー・環境材料研究拠点, 主任研究員 (30398094)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2020-03-31
キーワードセラミクス / リチウムイオン伝導 / 粒界抵抗 / 空間電荷層 / 全固体電池
研究実績の概要

本研究は,プロトンやリチウムイオンなどのイオン欠陥種を伝導キャリアとする酸化物多結晶体における粒界輸送抵抗について,その原因が粒界コア正電荷に由来する粒界近傍のキャリア欠乏層であるとする空間電荷モデルの立場から,多結晶体作製プロセスの最適化により粒界抵抗の低減を実現することを目的としている.
本年度は,昨年度に引き続きリチウムイオン伝導性酸化物を対象としつつ,当初より検討しているベルト型高温高圧装置を用いた強酸化焼結実験に加え,通常焼結体の熱間等方加圧(HIP)処理による粒界伝導特性制御の実験を進めた.その結果,HIP処理により粒界によるイオン伝導抵抗が減少することを見出した.SEM観察により形態を観察した結果,HIP処理により緻密化と粒成長が進行していることが明らかとなり,HIP処理による粒界抵抗の減少には緻密化による有効伝導断面積の増加と結晶粒の成長に伴う粒界頻度の減少が寄与していることが明らかとなった.
一方,高温高圧装置を用いた強酸化焼結実験では,5.5GPaの圧力下で焼成することにより,800℃程度の低温においても十分な密度の焼結体が得られるが,そのイオン伝導特性は当初の予想と反し,特に粒界抵抗が極めて高いことが明らかになった.この試料をポストアニールすることにより粒界抵抗は低減するが,通常の焼結体より高いイオン伝導度は得られなかった.この低温焼成により得られた,緻密であるが高粒界抵抗である試料の特性解明は,低温焼成体の粒界抵抗制御の手掛かりになると考えられる.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究課題の開始以降,研究代表者の機関変更による実験環境整備,所属グループの異動による研究対象の変更があり,当初の研究進捗は遅れていたが,以降は高温高圧装置を用いた強酸化焼結実験とHIP処理実験を併行して効率的に研究を進めてきた.前者の強酸化焼結実験では,予想に反して粒界抵抗が極めて大きい試料が得られ,高圧プロセスに特有の現象が現れていると考えられる.しかしながら,高温高圧装置による試料作製を初めとする一連の実験について手法をほぼ確立しており,緻密ながらも粒界抵抗が極めて大きいという,新しく見出した試料の特性の解明を更に進めることが可能な態勢にある.
一方,当初の研究計画調書においてバックアップとして計画したHIP処理実験を行った結果,HIP処理により粒界による抵抗が減少することを見出した.HIP処理の前後で結晶構造の変化はなく,この現象は当初計画で期待した粒界の抵抗低減に他ならない.粒界抵抗は更に低減することが必要であり,産業プロセスにおけるHIPの適用可能性についても検討が必要であるが,本研究による知見は粒界抵抗の本質に迫るとともに更なる粒界抵抗の低減の可能性を探るうえで重要なものであると考えられる.

今後の研究の推進方策

補助事業期間を延長して最終年度となる2019年度は,これまでに明らかになったHIP処理による粒界抵抗の低減効果のメカニズム解明とHIP条件の最適化による一層の粒界抵抗低減に取り組む.研究計画調書においては比較的希薄なイオン欠陥キャリアとして導入されるプロトンの伝導を対象としており,粒界コアの正電荷に由来するプロトン欠乏層が粒界抵抗の本質であると仮定していた.リチウムイオン伝導性酸化物においても粒界抵抗は近傍のキャリア欠乏層に由来する可能性があるが,この系においては格子点をリチウムイオンと空孔がそれぞれほぼ同程度の濃度で占有するため,イオン伝導度とリチウムイオン濃度の関係は火山型の極大点を示す.すなわち,粒界における固定電荷によりイオン欠陥濃度が変化するとしても,その伝導度への影響は単純ではない.このような背景を踏まえつつ,HIP処理前後の試料の粒界および近傍の分析を詳細に行う.具体的には,(S)TEM-EDS-EELSを駆使して構造・組成・電子状態を明らかにするとともに,SIMSを用いた比較的広範囲における構成元素の分析により,HIPが粒界の特性に及ぼす影響を明らかにする.以上により,HIPによる粒界抵抗低減のメカニズムを解明するとともに,粒界抵抗の本質に基づく更なる粒界抵抗低減のための指針を提案する.
なお,高温高圧実験により得られる試料の巨大粒界抵抗は,産業プロセスで想定される低温焼成プロセスにより作製する固体電解質の粒界抵抗の改善と深く関わる課題であり,新たな科研費研究課題の対象に設定してメカニズム解明と粒界抵抗制御に取り組む.

次年度使用額が生じた理由

研究代表者の異動に伴い,粒界抵抗制御の対象をリチウムイオン伝導性酸化物に変更したため,当初の研究進捗はやや遅れていたが,酸化剤を封入した超高圧焼結と熱間等方加圧(HIP)処理を並行して検討した結果,これまでにHIP処理により粒界抵抗が減少することを見出している.一方でそのメカニズムは未解明であり,より効果的な粒界抵抗低減手法の提案を目指し,HIPによる粒界抵抗低減の本質を明らかとする実験を遂行するために補助事業期間を延長することに伴い次年度使用額が生じた.当該助成金は試料作製のための試薬や消耗品類の購入に使用する計画である.

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2018

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)

  • [雑誌論文] Hydrogenation of the wide-gap oxide semiconductor as a room-temperature and 3D-compatible electron doping technique2018

    • 著者名/発表者名
      Yajima T.、Oike G.、Yamaguchi S.、Miyoshi S.、Nishimura T.、Toriumi A.
    • 雑誌名

      AIP Advances

      巻: 8 ページ: 115133~115133

    • DOI

      10.1063/1.5055302

    • 査読あり
  • [学会発表] 緻密および多孔(La,Sr)CoO3におけるSr偏析2018

    • 著者名/発表者名
      三好正悟
    • 学会等名
      第14回固体イオニクスセミナー

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公開日: 2019-12-27  

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