本研究は,プロトンやリチウムイオンなどのイオン欠陥種を伝導キャリアとする酸化物多結晶体における粒界輸送抵抗について,その原因が粒界コア正電荷に由来する粒界近傍のキャリア欠乏層であるとする空間電荷モデルの立場から,多結晶体作製プロセスの最適化により粒界抵抗の低減を実現することを目的としている. 本年度は,昨年度に引き続きリチウムイオン伝導性酸化物を対象とし,昨年度より検討を開始した通常焼結体の熱間等方加圧(HIP)処理による粒界伝導特性制御に関する検討を進めた.粒界によるイオン伝導抵抗がHIP処理により低下する現象のメカニズム解明を目的とし,通常焼結試料およびHIP処理試料のSTEM観察を行った.特に粒界および粒界近傍について観察を行ったところ,何れの試料においても粒界付近にリチウムイオン伝導相と異なる不純物相などは確認されなかった.すなわち,対象とした材料系における粒界抵抗は異相などによる外因的な現象ではなく,良好な粒子間接合においても生じる内因的なものであることが示唆される.一方,通常焼結試料とHIP処理試料の比較においては,粒界および近傍の観察・分析結果において有意な差は見出せていない.観察に供した両試料における粒界抵抗の大きさは約2倍程度の違いであり,STEM観察により検出可能な程度の粒界構造の相違が生じていない可能性がある.今後,処理条件の最適化によりHIP処理効果がより大きく現れた試料を対象とすることで,粒界構造の相違を捉えることが期待される. 本研究では,イオン伝導体における粒界抵抗の起源解明と低減手法開発を目的とし,リチウムイオン伝導性酸化物を対象として検討を行ってきた.その結果,粒界抵抗の起源として仮定した空間電荷機構の証明には至らなかったものの,異相などによらない内因的な粒界抵抗が熱処理により様々に変化することを見出し,発現機構解明へと繋がる知見を得た.
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