研究課題/領域番号 |
16K18239
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
上田 太郎 長崎大学, 工学研究科, 助教 (10524928)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 固体電解質 / 安定化ジルコニア / ガスセンサ / 酸化セリウム / メチルメルカプタン |
研究実績の概要 |
イットリア安定化ジルコニア (YSZ) とAu系検知極を用いる固体電解質型センサがトルエンに良好な応答を示すことに着目し,酸化セリウムをAu検知極に添加してこれを薄膜化することにより,低濃度メチルメルカプタンの高感度検知が可能なセンサの開発を目指した。スパッタリング法を用いて,YSZ基板に酸化セリウム(膜厚: 10~60 nm)とAu (膜厚: 100あるいは300 nm) を積層することで,従来の成膜方法と比較して(スクリーン印刷,膜厚: 約10μm),検知極の膜厚を大きく薄膜化できた。同時に,Auのみの検知極を取りつけたセンサも作製した。 作製したセンサのトルエン応答特性を評価したところ,Au検知極を用いたセンサは膜厚が300 nmの場合の方が大きく,トルエン(50 ppm)に対して185 mV(作動温度:550℃)の応答を示した。そこで,酸化セリウムを積層した場合の応答特性を評価したが,トルエン応答値は酸化セリウム層の膜厚の増加とともに減少した。ただし,このセンサのメチルメルカプタン応答特性を評価したところ,140 mV (1 ppm , 550℃) の応答を示し,ppbレベルのメチルメルカプタンを十分に検知可能であることがわかった。 酸化セリウムを積層した場合に応答値が低下したのは,酸化セリウムの触媒活性が大きく,検知極は薄膜であったが緻密な構造であったので,トルエンが検知極中を拡散し反応場(三相界面: ガス/検知極/固体電解質)に到達する過程で,その多くが分解したことが影響していると考えられる。今後は,検知極のガス拡散性が向上するように,薄膜検知極の多孔質化に取り組み,応答値の向上を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スパッタリング法を用いて,従来法(スクリーン印刷)よりも膜厚が二桁小さな100~300 nmの酸化セリウムとAuからなる薄膜検知極を作製することができた。酸化セリウムの積層により応答値を改善することはできなったが,1 ppmのメチルメルカプタンにも140 mVの応答を示すことがわかり,ppbレベルの極低濃度メチルメルカプタンの高感度検知の可能性が示された。 酸化セリウムの添加により応答値が低下した理由は,酸化セリウムの高い触媒活性のため,検知極を被検ガスが拡散中により多くのトルエンが分解し,ガス反応場である三相界面に到達するトルエンの実濃度が減少したことが原因であると考察した。ただし,ガス拡散性が不十分と考えられる緻密電極であっても,本センサは比較的良好なメチルメルカプタン応答を示すことがわかった。これは,検知極を薄膜化したことが大きく寄与していると考えられる。したがって,多孔質な薄膜検知極を作製できれば,その応答特性をより向上できる可能性がある。 今後は,コーティング溶液を用いた液相プロセスや高分子テンプレートを用いることによる,多孔質薄膜検知極の作製とその応答特性の評価を行う予定である。大きく計画を変更する必要はなく,研究を継続可能であると考えている。したがって,ほぼ予定通りに研究は進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
固体電解質(YSZ)上に厚さが 10~200 nmの酸化セリウムを添加したAu系検知極を取り付けてセンサ素子を作製する。セリウムおよびAuを含むコーティング溶液を用い,YSZ基板にドロップ法あるいはスピンコーディング法を用いて多孔質な薄膜検知極を成膜する。基板と溶液との親和性が重要であるので,エチレングリコールなどの増粘剤や界面活性剤を添加することによりコーティング溶液を最適化する。作製したセンサ素子のトルエンおよびメチルメルカプタン応答性を評価し,検知極構造とセンサ応答との関連性を明らかにする。 作製した酸化セリウムを添加したAu薄膜検知極の,膜厚や酸化セリウム添加量を変化させたときのメチルメルカプタン応答特性を評価する。また,呼気などに共存するガス群(トルエン,硫化水素,アセトン,水素)に対する応答特性を評価し,高感度・選択的な応答が得られる条件を明らかにする。さらに,触媒活性試験や複素インピーダンス試験を行い,センサ応答に寄与する因子を明らかにする。作動温度や検知極材料を最適化する場合の,メチルメルカプタン応答の改善可能性を考察する。 研究の進展により,作製したセンサ素子の検知極と対極間に一定の電位差を印加し,流れる電流値をセンサ応答信号とする電流検出型センサとしての特性を評価する。電位検出型センサでは,検知極界面に吸着したメチルメルカプタンの酸化反応活性がセンサ応答に寄与するが,電流検出型センサでは,メチルメルカプタンの分解電流をセンサ信号として取り出すことができるので,高感度・選択応答を得られる可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であったエレクトロメータよりも高性能な製品を見つけたが,納期に時間がかかり年度内に納品が難しかったため,この購入費用分を次年度に繰り越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
購入予定であるエレクトロメータ,検知極の合成に必要な試薬やガラス器具類,センサ素子作製に必要な貴金属や基材,センサ応答特性評価に必要なガス購入を行う。また,研究動向についての調査研究,研究成果の外部への積極的な発信のための旅費としての使用を計画している。
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