研究課題/領域番号 |
16K18245
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
入澤 寿平 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (30737333)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 複合高分子 / 耐熱性ポリマーアロイ / CFRTP |
研究実績の概要 |
航空機エンジン部材としても安定的に使用可能(300℃程度での使用を想定)な次世代CFRTP開発を目的とする.熱可塑性は低いが極めて高い耐熱性を有するポリンベンズイミダゾール(PBI)等をCFRTP母材に適用するための指針を導出する.手段としては,耐熱性熱可塑性樹脂(ポリエーテルイミド(PEI)等)とのポリマーアロイ技術を応用し,易可塑型高耐熱性ポリマーアロイを開発し,母材としての適合性評価を進める, 本年度は,初めに次世代CFRTPの比較となる既存CFRTPの耐熱評価に取り組んだ.自動車用途として開発が進められているポリアミドを母材とするCFRTPはガラス転移点や融点の兼合いで常用100℃以下と予想される一方で,耐熱評価に関する報告はわずかである.このCFRTPを実際に試作し,耐熱評価を進めたところ母材樹脂の劣化により100℃にて弾性率・強度が共に室温の50%程度にまで低下することを明らかとした.航空機用途CFRTPの母材として一部検討が進められるPEIを母材とするCFRTPの耐熱評価も実施した.150℃までの耐熱性が確保されるものの,それ以上の温度領域では著しい力学物性の低下が生じた.従って,既存のCFRTPでは,本研究で目的とする用途には性能不足であることを明らかとした. 続いて,易可塑型高耐熱性ポリマーアロイ(PBIとPEIのアロイ)の調整に着手した.PBIは熱可塑性が低く,溶融による混合は不可であったが,両樹脂ともに可溶な溶剤中にて混合し,脱溶媒するキャスト法にてアロイ樹脂を得ることに成功した.DSC,TMA測定でガラス転移温度を測定したところ,相分離に起因するダブルピークは観察されず,相溶状態の樹脂が得られることが明らかとなった.ガラス転移温度も1:1の混合比において280℃までシフトすることを明らかとした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,初年度にアロイフィルムを試作し,組織形成機構追跡や組織観察を通じて組織と熱物性・力学物性との相関を検討することが計画されていた.研究は申請者と学生2名によって実施したが,人員の不足により組織観察の観点からアロイフィルムにおける2種の高分子の相溶メカニズムを完全に明らかとするまでには時間的に至らなかった.従って完全に計画通り進んでいるとは言えないものの,材料の試作の観点からは既に溶液法によって実際に耐熱性ポリマーアロイの作成に成功し,さらには熱物性評価の観点から樹脂の耐熱性を大幅に改善した結果を得るに至り,当初の計画以上に進行している.また,研究を進める上で基盤(比較)となる既存材料の分析も順調に進行した.こうした成果は,初年度として研究成果を国際・国内会議にて発表することも達成されたほか,初年度に予定していなかった誌上報告も実施することもできている. 次年度以降に実施する,炭素繊維との複合化に向けた初段階的知見は初年度に充分に得られたといえ,順調に進展したと言える.
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今後の研究の推進方策 |
組織観察の観点には若干の遅れが生じているものの,全体的には順調に研究を進めることができている.2~3年目は,組織観察の観点の遅れを取り戻すとともに,当初に計画していた2年目の計画に基づいて,下記の通り実施する予定である. 平成29年度は,研究人員として学生を1名追加し,組織観察の観点の遅れを取り戻すととも,初年度に得られた耐熱性ポリマーアロイの知見を活かし,実際に「耐熱性ポリマーアロイのCFRTP母材としての適合性評価」に予定通り着手をする.適合性評価としては,複合材料の物性において重要な因子である炭素繊維束への母材樹脂の含浸性及び界面接着性を評価する.母材樹脂の含浸性評価の観点からは,CFRTPの力学物性の最大化・最適化を目指し,樹脂含浸率(目標:炭素繊維60 vol%,樹脂40 vol%)の制御に取り組む.樹脂を含浸させる手段として,既に得られているアロイ樹脂を溶融法によって含浸させる手法と,溶液として含浸させる手法が想定されるが,両手法におけるメリットとデメリットの把握に努めながら,目標値の達成を試みる.界面接着性の評価に関して,耐熱性ポリマーアロイをCFRTP母材に適用した場合,樹脂の耐熱性よりも界面接着の耐熱性が低くなる可能性もあり,この際には高分子の耐熱性が十分に発揮されないことが想定される.界面接着評価法の中からフラグメンテーション試験を実施し,耐熱性ポリマーアロイー炭素繊維間の界面接着力の評価を実施することによって,そうした問題が生じないか,観察を行う. 平成30年度には,成果のまとめを行うと同時に,CFRTPの試作に取り掛かる.作成されるCFRTPの耐熱特性に関して評価をする. 研究リスクとして,2年目に樹脂の流動性が得られずに樹脂の含浸性が想定より低くなることも懸念されるが,不測の事態に備えて新しい混合系における耐熱アロイ樹脂の作成にも取り組む.
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