2018年度では、ペプチドハイドロゲル中で生体模倣型ミネラリゼーションにより鉱化した炭酸カルシウムの微細構造および結晶相について透過型電子顕微鏡を用いた評価(研究課題1)に加え、ミネラリゼーション機構について検討した(研究課題2)。研究課題1では、鉱化した炭酸カルシウム結晶(またはアモルファス)はテンプレートとなるペプチドネットワーク上で選択的に形成されていることを見出した。また、ペプチドゲル中に添加したカルシウムイオン(架橋剤)濃度により異なる結晶多形であることが透過型電子顕微鏡観察より明らかとなった。特にイオン濃度が低い系では、準安定相であるアラゴナイト結晶が選択的に形成および成長していることを見出した。加えて、カルシウム原子の配列パターンよりペプチドネットワークに対してアラゴナイトのa面がコンタクトしていた。一方、カルシウムイオン濃度が高い系では、最安定結晶相であるカルサイトの形成が確認された。これらの結果は、ペプチドネットワークの表面ナノ構造と炭酸カルシウムの核形成速度が鉱化する結晶多形を決定していると考えている(研究課題2)。今後は、ミネラリゼーションプロセスの最初期における核形成および成長を動力学的解析により評価することでミネラリゼーションメカニズムを検討していく。 本研究により得られた成果は、生体システムに倣う低環境負荷型の製造プロセスによる新規機能性有機無機複合材料創製および、生物のバイオミネラリゼーション機構の理解のために重要な基礎的知見になると考えられる。
|