昨年度までに、高分子主鎖にヘテロ原子を含まないスルホン酸化ポリフェニレン(SPP-QP)膜が、極めて高い化学安定性を有することを見出している。本年度は、SPP-QP膜の諸物性を更に向上することを目的に、高分子主鎖の第三成分としてパーフルオロアルキル基を導入した新規プロトン導電性ターポリマー(SQF)を設計し、合成および物性解析を行った。まず、同程度のIECを有するSQF膜とSPP-QP膜の諸物性を比較することで、パーフルオロアルキル基の効果を検証した。その結果、SQF膜はSPP-QP膜と比較して、より明瞭な親疎水界面を有するミクロ相分離構造を形成するとともに、プロトン伝導に対して膜中の水がより効果的に寄与することが示された。これは、パーフルオロアルキル基の高い疎水性が寄与しているものと思われる。また、80℃、60%相対湿度における引張試験の結果、SQF膜の破断点伸び(90%)はSPP-QP膜(68%)と比較して、より高い値を示した。これは、パーフルオロアルキル基の高い柔軟性が寄与した結果と考えられる。最後に、80℃、100%および30%相対湿度における燃料電池発電試験を実施した。その結果、SQF膜を用いたセルはSPP-QP膜を用いたセルと同等以上の優れた発電性能を示した。さらに、80℃、30%相対湿度における開回路電圧(OCV)保持試験の結果、保持時間の経過とともにSQF膜を用いたセルのOCVはわずかに低下したものの、1000時間経過後においても高いOCV(0.88 V)を維持した。このOCV低下率(約90 μV/h)は、SPP-QP膜を用いたセルのOCV低下率(約226 μV/h)と比較して、より低い値であることから、SQF膜は燃料電池実作動条件においても、SPP-QP膜と同等以上の高い化学安定性を有することが実証された。
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