研究実績の概要 |
最終年度は原子半径のそれぞれ異なるZn, Si, Niの固溶原子を固溶限近傍までCuに添加し,巨大ひずみ(SPD)加工を行った際の硬度と組織の変化を固溶原子濃度や価電子濃度,そして積層欠陥エネルギー等の因子に着目しながら系統的に調査した. Cu-Zn合金やCu-Si合金のように固溶添加原子の増加に伴って積層欠陥エネルギーが低下するような合金の場合には,積層欠陥エネルギーの変化と強度,結晶粒径,転位密度の変化には強い相関があることが明らかになった.またCuと固溶添加原子の原子半径の差であるミスフィットの大きい固溶原子を添加した合金ほどSPD加工後の組織も微細化し,強度も高くなる傾向にあることがわかった.固溶添加原子濃度の観点から言えば,ミスフィットの大きい固溶原子を添加した合金ほど少量の添加でSPD加工後の強度を大きく向上させることができると言える. 一方,遷移元素であるNiを添加したCu-Ni合金に関しては30at.%Ni程度まで積層欠陥エネルギーは概ね一定であるにも関わらず,SPD加工後の硬さや強度の上昇が同様に得られている.またNiのミスフィットはZnやSiに比べて小さいが,30at.%Ni程度の固溶添加で300HV程度の硬さと1GPa以上の引張強さが得られた.Cu-Ni合金のSPD加工後の強度の向上は,Ni固溶原子による転位のピン止め効果によって動的回復や動的再結晶を抑制し,Cuの回復温度や再結晶温度を上昇させているために,より大きなひずみを材料に与えることが可能になっているという結論に至った.ZnやSi等の固溶原子の添加によってCuの回復温度や再結晶温度は上昇するのでCu-Zn合金等でも同様に固溶原子による転位のピン止め効果はあるはずであるが,SPD加工後の組織や強度には積層欠陥エネルギーの影響の方が支配的に作用していることが明らかにされた.
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