研究課題
新たな高温形状記憶合金として、100℃以上の高温で駆動可能であり(すなわちマルテンサイト相-母相間の相変態が100℃以上で生じ)、析出物生成により高温での強度が高く、マルテンサイト相の結晶構造に起因して相変態が生じやすい合金の開発が求められている。2年目までの研究では、上記の要望を満たす合金としてチタン-ジルコニウム-パラジウム(TiZrPd)合金を開発できたが、繰り返し使用の際に新たな析出物が生成されることで形状記憶特性が変化(劣化)し、1回のみしか使用できないという課題がみられた。最終年度においては、2年目に引き続き、合金組成と熱処理条件を調整することによる繰り返し特性の改善を目指した。まず、合金のZr濃度が析出物の生成温度に及ぼす影響を調査した結果、僅かにZr濃度を減少させることで、100~200℃程度の温度環境下での析出物生成を抑えられることがわかった。また、加えて熱処理による改善も試みた結果、500℃以上の温度で析出する析出物をあらかじめ大きく成長させることにより、より低温でのその後の析出物の生成挙動が変化することが明らかとなり、多段階熱処理を施すことで100~200℃程度での新たな析出物生成を抑えることができた。これにより形状回復可能な歪み量が減少する傾向がみられたが、繰り返し特性を大きく改善することに成功した。形状回復量に関しては、ばね等の変位を拡大する形状など、設計の工夫により補える部分があることから、本研究で開発した合金は、月面探査機をはじめ100~200℃程度の環境下での新たな用途開拓につながる合金として期待できる。
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