本研究の目的は、Fe が溶出し易いCaO-SiO2-FeOx 系非結晶相を利用し製鋼スラグのFe 溶出能を向上するため、まず、CaO-SiO2-FeOx 系非結晶相の構造及び水溶性に影響するファクターの作用メカニズムを明らかにする。そして、製鋼スラグにCaO-SiO2-FeOx 系非結晶相が多く含まれるよう、適切なスラグ組成及び冷却条件を明確にすることを目的とする。2016年度では、酸化Feの価数、酸化Fe濃度、塩基度(CaO/SiO2)が異なる非結晶相、及びその他の添加酸化物を含む非結晶相を合成し、その水溶性を調査し、非結晶の組成と水溶性の関係を把握した。2017年度では、組成により水溶性の変化メカニズムに対して、固体NMRおよびラマン分光方を用いて、溶出前後に非結晶相の構造変化を解析した。その結果、FeO濃度及び塩基度を増加、添加酸化物を低減した場合、非架橋酸素が増えて、低円環のQ0、Q1構造が多くなり優先的に溶出されると確認した。一方、酸化鉄価数を変化した場合、分析によるSiO4 四面体が持つ架橋酸素の平均値は、組成から求める計算値から乖離し、一部のFe2+はネットワークフォーマーとして働くことを示唆した。現在は XAFS 等を用いて酸化鉄の構造を調査している。一方、製鋼スラグにCaO-SiO2-FeOx非結晶相の相分率を向上するため、非平衡条件におけるスラグの全体組成、冷却開始温度、冷却速度の制御方を検討した。その結果、市販製鋼スラグ系肥料の溶出特性と比較して、Ca、Siの溶出量はほぼ同レベルの、Feの溶出量が大幅に増加することを確認した。従って、製鋼スラグの組成、結晶構造制御により、今までのない高いCa、Si、Feの供給能を同時に持つ製鋼スラグ系農業資材の作製可能性が検証できた。
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