研究実績の概要 |
H28年度は、主に単分子膜ならびにリポソーム膜を用いて脂質膜ドメインのナノ構造解析を行った.DPPC脂質に脂肪酸(オレイン酸)を添加した際のπ-A等温線ならびに表面力測定解析より、オレイン酸分子が膜の秩序構造を乱し膜内部の疎水場を暴露させる事を明らかにした(BBA-Biomembranes, 1859, 211-217 (2017)). リポソーム膜状におけるナノドメイン形成挙動についても検討を行った.コレステロール(Chol)誘導体(Chol、Erg、Lan)の場合、Cholでは秩序相の形成が見られたが、ErgやLanでは秩序相形成がほとんどみられなかった(Langmuir, 32 (24), 6176-6184 (2016)).さらに、Chol誘導体であるDC-Cholにおいても同様にナノドメインが形成される事を明らかにした.DC-Chol分子は正電荷脂質であるため,膜上のDC-Cholドメインは非ドメイン領域と比較して約6倍の電化密度を有する事を明らかにした(Langmuir, 32, 3630-3636 (2016)). 分子認識については,主にリポソームによる核酸(tRNA),アミノ酸の選択的な吸着挙動について検討を行った.核酸(例:tRNA)を認識する膜場設計として,グアニジニウム修飾リポソームを調製し,従来の正電荷リポソームと比べ,約10倍程度の結合乗数を示す事を明らかにした.さらに,リポソームによって認識されたtRNAは,加熱によって工事構造変化を誘導した際に,C-G塩基が選択的に開裂する挙動を示した(J. Phys. Chem. B, 120 (25), 5662-5669 (2016)).アミノ酸認識において,不均一膜の相境界においてL-アミノ酸認識が促進される事を明らかにした(Langmuir, 32 (24), 6011-6019 (2016)).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H28年度の目標である,自己組織化膜のミクロ環境に関する特性解析手法は概ね確立できたと考えられる.単分子膜に関して,πーA等温線より分子占有面積,圧縮率を解析する事で脂質分子間相互作用を見積る事ができる.リポソーム膜の場合,蛍光プローブ(TMA-DPH,Prodan,ANS,Laurdan,DPH)を利用して膜深度の異なる領域の特性を多焦点的(Multi-level)に比較する手法を開発した(Langmuir, 32 (24), 6176-6184 (2016)).また,従来のゼータ電位測定では膜のミクロ相分離を反映した電荷密度解析は困難であったが,蛍光プローブHHCにより膜表層の局所的な静電ポテンシャルを解析する手法を開発した(Langmuir, 32, 3630-3636 (2016)). 分子認識については,主にリポソームを基盤とする分子認識機構の解明に成功した.アミノ酸や核酸の吸着選択性を向上させる鍵となる要素は,ナノドメインならびに相境界である.従来では,経験的に不均一リポソームが分子認識に応用されてきたが,本研究では界面長という概念を導入し,不均一膜ドメインの周囲界面長を定量的に評価した.結果,L-His認識において,界面長と吸着速度に比例関係がある事を初めて明らかにした.グアニジニウム基による核酸認識において,グアニジニウムリガンドが膜上で秩序相を形成する事を明らかにした.このとき,室温ではtRNA分子の構造に影響はないものの,高温(60℃)ではドメイン構造が崩壊し,それに伴って認識したtRNA分子の特異的な構造変化を誘導する事がわかった. 以上より,膜設計ならびに分子認識への応用という課題は概ね達成できていると考えられる.
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