研究課題/領域番号 |
16K18279
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
菅 恵嗣 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (00709800)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | リポソーム / 自己組織化 / ゲル / キラル分離 / 脂肪酸 / RNA / アミロイド分子 / メソスケール膜特性 |
研究実績の概要 |
H29年度は、脂質膜界面における分子の振舞いに着目し、リポソーム膜、金ナノ粒子に担持したリン脂質膜、脂肪酸ベシクル膜を用いて研究を行った。RNA分子認識を目的としてグアニジニウム基を有するリガンド分子(SG、MA)を設計し、膜界面におけるモデルRNA分子の吸着挙動について解析した結果、SGはRNA分子と強く相互作用し高次構造変性を誘導する一方、MAはRNA分子との相互作用が弱く、その理由として膜表層が親水化されていることが原因であることを明らかにした(J. Phys. Chem. B., 2017)。 分子間相互作用の解明を目的として、膜表面増強ラマン分光法(Membrane Surface-Enhanced Raman Spectroscopy)による核酸分子ならびにペプチド分子の相互作用を評価した.核酸分子の場合、グアニンあるいはアデニンのN7部位が膜と相互作用し水素結合している可能性が高い(第67回コロイドおよび界面化学討論会、若手講演賞受賞)。またアミロイドβ分子の場合、ホスホセリン(PS)脂質分子のカルボニル基と強く相互作用している事を明らかにした。脂質膜界面での分子認識において、対象分子と膜の双方が水和水を失い、エントロピー駆動により分子が膜表層へと分配されると考えられる。 以前より取り組んでいるアミノ酸分子認識について、リン脂質を包埋させたCryo-Gelを作成することで、リン脂質自己集合体を材料に組み込んだ担体を設計した(SERDJ, 2018)。本材料は、従来と同様にL-トリプトファンの吸着を示し、さらにくり返し吸着実験に使用できる。以上より、ミクロ―メソスケールでデザインされた自己組織化膜を材料に組み込むことで、分子認識可能な担体を設計できると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H29年度の研究成果により、膜表層の水和挙動が自己組織化や分子認識(広義では自発的な分子の自己組織化)のカギであることを明らかにした。既存の手法では膜界面の水和水を評価するのは困難であるが、本研究では、多角的(Multi-Focal)に膜表層特性を解析しその知見を体系的にまとめることで、膜表層の水和水を実験的アプローチで評価することを重点的に取り組んだ。具体的には、高周波誘電緩和スペクトル解析によるbulk水/水和水の定量的な解析、DPH蛍光消光法による脂質膜厚みの評価、Laurdan/Proda蛍光スペクトルのデコンボリューション解析によるミクロ極性環境の評価である。実験データは概ねそろっているため現在論文執筆中である(3報執筆中)。 また、脂肪酸分子の自己組織化を利用した材料設計にも取り組み、オレイン酸/モノオレイン集合体が3次元的なネットワークを形成したCubosome構造についてRaman分光ならびにLaurdan蛍光プローブを用いて膜特性を評価した。マクロ的には集合体はゲルであり、膜界面において分子はゲル相状に密にパッキングされた状態であることを明らかにした(Langmuir 2018)。本手法は、分子認識能を備えた各種の脂質膜を分離担体へとスケールアップさせるために必要不可欠な知見である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度では、ミクロ-メソスケールでデザインされた膜の分子認識能を、マクロスケールで活用するための方法論について開発を行う。継続して、分子認識能を高めるための膜デザインについて探求し、アミノ酸、核酸、ペプチドを効率よく吸着回収することを目指す。分子認識においては膜表層の水和状態がカギとなる。既存の膜特性(流動性、膜極性)に加えて、表層水和水を定量的に解析し、分子認識に伴ってダイナミックに変動するパラメータを絞り込む。最終的には、水和数 (number of hydration water)を評価軸としてエネルギーの変化を算出し、自発的な分子認識を熱力学的に説明することを目指す。 H30年度の方針として、ミクロな膜界面特性の変化を高感度に観察することを1つの課題とする。そのために、重合性脂質に着目する。ジアセチレン脂質は重合することでポリマー構造特有の色を示す。秩序相では青色、無秩序相では赤色、という特徴があり、これらを膜界面の可視化に活用する。さらに、脂質の集合構造をテンプレートとしたポリマーは、既存のポリマーと比較して秩序性が高く、分子インプリント膜の様な性能が期待される。
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