最終年度であるH30年度は,膜界面におけるミクロ-メソスケールの挙動をマクロで可視化するための方法論の開発について検討した.具体的には,刺激応答性ポリマーであるポリジアセチレン(PDA)膜場の基礎的な知見の収集を行い,コレステロールを修飾したPDAベシクルにおいて高次キラリティが誘導される事を明らかにした.PDAを含有する膜場材料の設計として,TCDA/MOから成るCubosomalゲルについて検討し,高温条件においても安定にゲル構造を維持可能な自己組織化膜材料を開発した(H30年度化学工学会研究奨励賞受賞). 並行して脂質膜表層における水和水の挙動解析のための方法論について検討した.ここでは環境応答性蛍光プローブであるLaurdanを用いて,Steady-State蛍光スペクトルより溶媒モデルを構築する新たな解析手法を確立した.さらに,時間分解蛍光スペクトルに基づくLaurdan蛍光解析を発展させ,膜表層の水分子を定量的に解析する方法論を開発した.上述の方法論に基づき,膜界面への核酸分子吸着における協同的な水和挙動について検討し,特に一本鎖RNA分子の相互作用においてはエントロピー駆動が支配的であることを確認した. 脂質膜-アミロイドタンパク質の相互作用について,金ナノ粒子を活用する表面増強ラマン解析を行った.負電荷脂質PSを含む脂質修飾金ナノ粒子を調製し,アミロイドβタンパク質の線維化挙動について観察した.粒子自体は負電荷により分散するが,タンパク質を系に共存させる事でラマンスペクトルが増強される事を明らかにした.このとき脂質―タンパク質間における水素結合相互作用を確認し,タンパク質の線維化(βシート構造)に伴い脂質膜への親和性が増大する可能性を明らかにした.
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