研究実施者の所属機関変更に伴って,装置の移動・立ち上げに時間を要した。この期間の研究計画を実施するために,研究期間を延長して研究を進めた。最終年度ではメタノール電解脱水素による水素合成に対して電解の諸条件(電解電圧,電解溶液組成,MEAの作製方法)が与える影響を検討した。その結果,電解の諸条件はメタノール電解脱水素に大きな影響を与えることがわかった。本研究では,触媒電極(カソードとアノード)でナフィオン膜を挟み込んで,膜-電極接合体(MEA)を作製している。メタノール電解脱水素を効率よく進めるためには,このMEA作製条件に工夫が必要であることがわかった。メタノールと水が適切に触媒に接触し,さらに生成物(CO2など)が効率よく触媒層から離れるようなマクロな触媒反応場の設計が必要であることが示唆された。さらに電解条件は,CO2生成のファラデー効率にも影響を与えた。 メタノール電解では水からも水素が取り出せるので,メタノールを添加した水電解と見なすことができる。そこでメタノール電解脱水素と水電解の比較を行った。水を50 mA/cm2で定電流電解すると,水電解に要した電圧は1.6 V程度であり,電荷移動抵抗等により理論電解電圧(1.23 V)以上の値を示した。一方,メタノール水溶液電解の電圧は約0.7 Vであり,理論電解電圧(0.04 V)を大きく上回った。メタノール電解ではアノード反応の過電圧が極めて高いことが知られており,これが電解電圧の増大をもたらしたと考えられる。それでも2つの溶液系を比較すると,メタノール水溶液は水よりも60%ほど低い電圧で電解が進んだ。つまり,メタノールの添加は水電解の省エネルギー化に貢献することが明らかとなった。 以上,本研究の推進によって「メタノール電解脱水素による純水素合成」に対して体系的な知見を得られたと考えている。
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