研究実績の概要 |
C-O, C-N, C-Sなどの異種元素同士の結合の選択的な開裂は,有機合成化学において使用される重要な技術である。その中でも,C-O結合の選択的な開裂は,木材から得られるバイオマスである「リグニン」を分解して有用な物質を得るための重要な技術であるため,近年注目されている。本研究は金属ナノ粒子を担持した酸化チタン(M-TiO2)を光触媒として利用しC-O,C-N,C-S結合の選択的な切断を目的とするものである。平成30年度は基質の拡張と置換基効果を検討し,これまでの結果をまとめた論文がChemical Communicationsに受理され、Inside Back Coverに選出された。令和元年度は金属ナノ粒子上で生成すると考えている「活性水素種」について詳細に検討した。この中で,水素源(プロトン)の濃度が活性に与える影響を調査したところ,溶媒が異なると水の添加が反応の活性に与える影響が異なることを発見した。そこで,TiO2光触媒によるニトロベンゼンからアニリンへの還元反応と,白金ナノ粒子を担持したTiO2光触媒(Pt-TiO2)を使用した水素生成反応で同様の調査を行った。また,溶媒として使用したアルコール類が酸化されることで生成するアルデヒド,ケトン類が反応系に与える影響を水の影響と合わせて調査した。これらの調査結果をまとめ,以下の結果を得ることができた。1)メタノールを溶媒とした反応では水の添加が活性を下げたのに対し,2-プロパノールでは増加した。この傾向は水素生成でも同様であった。3)メタノールを溶媒における長時間反応での活性の低下は,メタノールが酸化されて生成するホルムアルデヒドによる触媒の被毒であることが示唆された。4)水の添加によるC-O結合の開裂の速度の増加は,正孔によるアルコール類の酸化反応の速度の増加によって引き起こされていることが示唆された。
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