研究課題/領域番号 |
16K18299
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡野 憲司 大阪大学, 工学研究科, 助教 (40623335)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 乳酸菌 / Lactobacillus plantarum / 芳香族化合物 / 木質系バイオマス / リグノセルロース |
研究実績の概要 |
脱石油化・低炭素化社会の実現に向け、バイオマス資源から多様な化学品を生産する技術の開発は重要である。バイオプラスチック生産においては脂肪族ポリマーの生産が中心であったが、より力学的物性・耐熱性の高い芳香族ポリマーの生産技術の開発が期待されている。また原料バイオマスとしては賦存量の多いリグノセルロース系バイオマスの利用技術が重要であるが、その加水分解産物(LCH)の利用においてはキシロースやアラビノースといったペントースの資化能、およびグルコースとの同時資化能が重要となる。そこで本研究ではLCHからの芳香族化合物の大量生産技術の開発を目指した。 本研究で用いる乳酸菌Lactobacillus plantarumは乳酸を主要な最終産物とするため、本年度はまず、本株の乳酸製性能の欠損を行うべくピルビン酸からのL-乳酸、D-乳酸生成に関わるL-LDHおよびD-LDH遺伝子の欠損を行い、乳酸を生産しない株の創製を行った。本株は元来アラビノースの資化が可能であったが、芳香族化合物の生産に重要なエリトロース-4-リン酸(E4P)の生成に必要なペントースリン酸経路を欠いている。そこで、本株のペントース代謝経路であるホスホケトラーゼ経路を遮断し、ペントースリン酸経路の導入を行った。続いて、得られた株にキシロース資化能の賦与(キシロースイソメラーゼ、キシルロキナーゼ遺伝子の導入)を行い、グルコースとペントースの同時利用が可能で乳酸を生産しない株の構築に成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は乳酸菌Lactobacillus plantarumの乳酸製性能を欠損させることで、乳酸を生産しない株の創製に成功した。また本株は元来アラビノースの資化が可能であったが、芳香族化合物の生産に重要なエリトロース-4-リン酸(E4P)の生成に必要なペントースリン酸経路を欠いているため、ペントースリン酸経路の導入を実施し、これに成功した。またキシロース資化能の賦与にも成功し、グルコースとペントースの同時利用が可能で乳酸を生産しない株の構築に成功した。以上のように本研究の目的であるLCHからのフェニル乳酸(芳香族化合物)生成の土台となる株の構築に成功した。しかしながら、乳酸生成は乳酸菌の細胞内酸化還元バランス(NADH/NAD+比)の維持に重要な役割を担うこともあり、L-LDHおよびD-LDH遺伝子のダブルノックアウト株を取得するのに多大な時間を有した。そのため、本年度の研究計画として挙げていたフェニル乳酸生産のためのシキミ酸経路を構成する酵素や遺伝子の制御系の解明に着手することができず、研究に若干の遅れをきたした。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は構築した非乳酸生産性のグルコース・ペントースの同時資化株のフェニル乳酸生産性の強化を行う。フェニル乳酸は解糖系で生じるホスホエノールピルビン酸(PEP)とE4Pを出発物質としてシキミ酸経路を通じて生産される。大腸菌における先行研究ではPEPとE4Pから3-deoxy-D-arabino-heputulosonate 7-phosphate(DAHP)を合成するDAHP合成酵素や、コリスミ酸をプレフェン酸へと異性化するコリスミ酸異性化酵素が、フェニルアラニン(Phe)やチロシン(Tyr)、トリプトファン(Trp)などの芳香族アミノ酸によってフィードバック阻害や転写レベルでの発現抑制を受けることが知られる。そこでL. plantarumにおいてもこのような制御機構が存在するかを確認する。抑制が存在する場合は、両酵素のプロモーターを恒常発現用のプロモーターに置換し、抑制の解除を行う。続いて両酵素を大腸菌で発現・精製し、これらの酵素活性がPhe、Tyr、Trpにより阻害を受けるかを確認する。阻害を受ける場合は、大腸菌やコリネ型細菌由来のフィードバック阻害耐性の変異酵素の遺伝子をL. plantarumに導入し、阻害の解除を行う。またこれと並行してPEPをピルビン酸へと変換するエノラーゼおよび、フェニル乳酸生産経路からPhe、Tyr、Trp合成へ分岐するための酵素群をコードする遺伝子を欠損させた組換え体の作成を行い、フェニル乳酸合成に不要な代謝経路の遮断を試みる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗に記載した通り、本年度予定していたシキミ酸経路の制御機構の解明に着手することができず、予定より消耗品等の物品への使用額が少なくなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度は学生の人員配置を増やすことで、今年度実施できなかった研究に加え、次年度計画を同時に行い研究を加速し、繰り越し金額と次年度予算を同時に使用する。
|