研究課題
リグノセルロース加水分解産物(LCH)からの芳香族化合物生産には、C5糖の資化能、およびグルコースとの同時資化能が重要となる。そのための方策として、非乳酸生産株を作製した後にC5糖の資化能を付与する方法、C5糖の資化能を付与した後に乳酸生産経路を遮断する二通りの戦略で菌株の作成を試みた。前者では、乳酸非生産株において、遺伝子欠損や置換の頻度が極めて低くなるという現象が見られ、菌株の改良が困難となった。一方、後者ではC5糖資化能を付与した株の乳酸生産能を欠失させることができなかった。これらの結果は乳酸菌における乳酸生産の重要性、すなわち菌体内の酸化還元バランスの維持の重要性を示すものであった。従って、本年度は乳酸菌の乳酸デヒドロゲナーゼを破壊し、乳酸非生産株を取得するのではなく、他のNADH消費反応を触媒する酵素を導入することで、菌体内の酸化還元バランスを維持した状態で非乳酸生産株を作製するという戦略を採用した。乳酸菌Lactobacillus plantarumのldhL1遺伝子の欠損株において、ldhD遺伝子をピルビン酸デヒドロゲナーゼと、アルコールデヒドロゲナーゼで置換した株の作成を行った。得られた株は乳酸をほとんど生産せず、エタノールを生産することができた。本株は、乳酸生産株と同様、解糖系で生じたNADHをピルビン酸の還元に伴ってNAD+へと変換できるため、菌体内の酸化還元バランス酸が整っている。このことが幸いしてか、エタノール生産性の乳酸菌は親株と同様、引き続いて遺伝子の欠損や置換が可能であった。従って、本株を利用してC5糖の利用能を付加することに成功した。残念ながら本研究の最終目的である芳香族化合物生産を実施することができなかったが、本研究では乳酸菌の代謝改変における大きな課題の一つを克服することができ、重要な知見を得ることができた。
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