研究課題/領域番号 |
16K18300
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研究機関 | 安田女子大学 |
研究代表者 |
砂山 博文 安田女子大学, 薬学部, 助教 (60706464)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 分子認識 / 分子インプリンティング / 高分子レセプター / センサー / バイオセンシング |
研究実績の概要 |
本研究では分子インプリンティングと多段階ポストインプリンティング修飾(PIM)法を組合わせた分子認識材料創製法を駆使することにより、これまで抗体が作製できなかった化合物群に対して特異的に蛍光シグナルを発する分子インプリントポリマーの創製を目的としている。 本年度はPIM修飾可能な分子インプリントポリマー(MIP)の設計・合成及びPIMによる標的分子結合能の制御に関する検討を行った。PIMを行うための分子としてジスルフィド結合を有する機能性モノマーを合成し、これを用いてLysozymeをモデル標的分子として金基板上にMIP薄膜を作製した。この薄膜の分子認識特性について表面プラズモン共鳴法を用いて検討したところ標的分子の濃度依存的にシグナルが増加したことから、作製したMIP内に標的分子認識空間が形成されていることを確認した。また、同程度の分子量を有し、等電点の異なる参照タンパク質を用いて選択性の検討を行ったところ、標的分子を最も吸着したことから、作製したMIPは選択的に標的分子を認識できることが明らかとなった。このMIPにPIMとしてジスルフィド交換反応を利用して末端の相互作用部位をカルボン酸、アミン、チオール、スルホン酸、オリゴエチレングリコール(OEG)に変換して、タンパク質結合能を検討したところ、導入する官能基の種類によってタンパク質結合能を大きくそして可逆的に制御できることを明らかにした。また、OEGに関しては導入する分子鎖の長さによってタンパク質吸着能を制御(抑制)できることが確認された。これを利用して、高親和性の結合空間を少量の標的分子で保護した状態でPIMにとしてOEGの導入を行い、その後、保護していた分子を洗い出して結合空間を再生し、更に相互作用可能な官能基の導入を行ったところ、70%の選択性の向上が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究開始に当たり研究代表者の研究所属機関の異動があったため、平成28年度前期は研究環境の整備等により多少の遅れが生じた。また、研究設備等の充足状況から平成29年度に計画していたポストインプリンティング修飾による結合能の制御に関する検討を前倒して行った。検討の結果、標的分子を高選択的に認識する材料を作製する上で重要な知見を得ることができた。また、設計したリンカー分子の合成には部分的に成功しており、更に今年に入って自動精製クロマトグラフの導入も完了したことから、合成をはじめとした実験環境に関しては特に問題は無いと考えている。今後はこれら及び安田女子大学が所有する各種機器を利用することで研究を推進していく。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画で28年度に計画されていた研究計画にのっとり研究を遂行する予定である。合成したリンカー分子を用いたビタミンE(VE)固定化基板の作製及び分子インプリンティング条件の検討を行う。ポリマー合成はATRP 法により行い、膜厚の揃ったポリマー薄膜の作製を行う。合成した薄膜についてXPS 及びXRR 又は分光エリプソメータにて評価を行い、得られた高分子膜の元素分析及び膜厚について評価を行う。この時に用いるモノマー、架橋剤について、acrylamide やtert-butylacrylamide,methacryloyl-cyclodextrin を始めとして分子の構造、化学的性質(親水性、疎水性、水素結合性等)の観点から、様々な候補化合物を選定・合成し、これらの化合物群の中からモノマーを1 つ又は2 つと架橋剤を1 つ選定する。これ以外にポリマーの主成分として生体適合性が高いことが知られている2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine(MPC)を用いる。各組み合わせについてモノマー及び架橋剤の比率を変化させてMIP を作製する。ジスルフィド結合の開裂によって露出したチオール基には第1 段階のPIM としてジスルフィド交換反応を利用してVE の水酸基と水素結合可能なカルボキシ基及び後の蛍光分子導入部としてアミノ基を有する化合物を導入する。作製したMIP のVE に対する親和性及び構造類似分子(構造異性体であるβ,γ, σ-トコフェロール)に対する選択性を指標に最適なポリマー組成を明らかにする。また、最適化されたポリマー組成においてPIM1 によって導入する相互作用部位をアミノ基やアミジン基等の水酸基と相互作用可能な官能基おいても検討し最適化を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の移動に伴う研究環境整備のため、本年度は前倒し請求を行った。それによって研究に必要な物品等を購入した。しかし、研究の遂行状況を鑑みて、購入を見送った試薬(消費期限が設定されているもの)等がいくつかあったため差額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度も基本的には研究計画に沿った研究費使用を考えている。前年度の残額を含め、研究の進捗状況を把握しながら、有機合成試薬、高分子合成試薬、ガラス器具、金基板等研究遂行のために必要な物品購入のために使用する。また、得られた成果を発表や情報・資料収集のための学会参加旅費として使用する。
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