研究課題/領域番号 |
16K18302
|
研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
山崎 思乃 関西大学, 化学生命工学部, 助教 (50602182)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 乳酸菌 / 免疫賦活 / IgA |
研究実績の概要 |
ある種の乳酸菌は、腸管免疫系を活性化し、免疫グロブリン(Ig)Aの産生を誘導することで病原性細菌の感染を防ぐ。この乳酸菌のIgA産生誘導作用は、菌体表層と免疫細胞との直接的な相互作用により発現する。乳酸菌の菌体構造は培養環境により変化するため、表層構造を設計することでIgA産生誘導作用を強化・付与できると期待される。 本研究では、乳酸菌表層のIgA産生誘導作用をもたらす細胞壁成分とその受容体との結合に注目し、菌体の立体構造ゆえに生じる受容体との結合の多価性および結合の継続時間を速度論的に評価することで、IgA産生誘導作用をもたらす表層構造を明らかにすることを目的とする。 本年度は、IgA産生誘導作用を示す乳酸菌Lactobacillus antriをモデル菌株とし、IgA産生誘導作用をもたらす細胞壁成分の特定を行った。菌体の構造を保持したまま、SDS溶液による煮沸処理後、プロテアーゼによる除タンパク質、クロロホルムによる脱脂、ヌクレアーゼによる除核酸を順次行い、各菌体成分を除去したフラクションのIgA産生の増強能を測定したところ、脱脂処理によりIgA産生増強作用が低下した。逆にクロロホルム抽出物にはIgA産生誘導作用が認められたことから、本菌株の細胞壁脂質にIgA産生誘導作用があることを明らかにした。さらに、リポテイコ酸などの細胞壁脂質を菌体表層に露出させる効果があると考えられる溶菌酵素で菌体を処理するとIgA産生誘導作用が強まることを見出し、菌体表層に露出した脂質の密度や構造がIgA産生誘導作用に影響を及ぼすことを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、IgA産生誘導作用を示す乳酸菌のモデル菌株としてL. sakeiを予定していた。しかし、L. sakeiでは細胞壁以外の菌体成分がIgA産生誘導作用に関与することが判明したため、細胞壁成分にIgA産生誘導作用があるL. antriに変更したが、総合的に判断しておおむね順調であると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
L. antriのIgA産生誘導作用をもたらす細胞壁成分としてToll様受容体2のリガンドとして報告のあるリポテイコ酸に注目していたが、リポテイコ酸以外の脂質成分の関与が示唆された。今後は、まずはその脂質成分の分離・同定を行った上で、平成29年度の計画に従い、リポテイコ酸あるいは同定した脂質成分と受容体との相互作用について表面プラズモン共鳴法を用いて解析していく。
|