ある種の乳酸菌はプロバイオティクスとして免疫賦活作用を示す。これまで乳酸菌と免疫細胞との相互作用は、菌体成分と受容体との親和性の有無で説明されてきたが、免疫細胞の活性化に重要な相互作用の「速さ」や「強さ」についてはほとんど解析されていない。そこで、本研究では、免疫細胞に発現するToll-like receptor(TLR)2を介して、パイエル板細胞からの免疫グロブリンA(IgA)の産生を促進する乳酸菌Lactobacillus antriをモデル菌株とし、TLR2と菌体表層リガンドとの相互作用の「速さ」とIgA産生促進作用と関連を明らかにすることを目的とした。本年度は、表面プラズモン共鳴法(SPR)を利用した菌体とTLR2との相互作用の速度論的な解析法の構築を試みるとともに、酵素処理により菌体の表層構造、特に表層に露出したリガンド密度を変化させ、相互作用の速さとIgA産生促進作用との関連を調べた。 SPR法による菌体表層リガンドとTLR2の相互作用の解析については、センサーチップに組換えTLR2タンパク質を固定し、菌体を注入してTLR2と結合させた後、緩衝液で洗浄することで、菌体のTLR2への結合と解離をリアルタイムで解析することが可能となった。また、TLR2のリガンドであり、IgA産生を促進する菌体表層成分をリパーゼにより分解すると、パイエル板細胞からのIgA産生促進作用が減弱するとともに、菌体のTLR2からの解離速度定数が増大することがわかった。本研究により、菌体表層リガンドと受容体との解離の速さや結合の継続時間が、乳酸菌が示す免疫賦活作用の強さを左右する重要な因子となる可能性が示された。
|