本研究では任意のタイミングで酵素活性を消去することで、代謝経路を切り替えられるシステムを構築することを目的とした。研究対象として微生物によるシキミ酸生産技術を選択した。シキミ酸を生産させるにはシキミ酸代謝酵素であるシキミ酸キナーゼ(SK)をコードする遺伝子aroKの破壊が効果的だが、これによって生産株は栄養要求性となり生産コストが上昇する。対して、aroKを破壊せず、転写を抑制しただけではその時点までに翻訳されたSKの活性が残存し生産効率を悪化させる。つまり微生物を増殖させる段階ではSK活性を示し、ある時点で完全にSK活性を消去することができれば効率的なシキミ酸生産が期待できる。 平成28年度は制御のためのプラスミドの構築と各制御段階での動作確認を試験管レベルで行った。 平成29年度は上記プラスミドに改変を加え、代謝切り換え可能な構成にした。具体的には大腸菌のアラビノース誘導系を利用し、aroKの転写を抑制するレギュレータをアラビノース依存的に発現誘導可能とした。さらにaroKにタンパク質分解シグナルを追加することで速やかな分解を可能にした。これによりアラビノース非存在下ではSK活性を持ち、アラビノース存在下では速やかにSK活性が消去される構成とした。 このように、遺伝子の転写抑制とそれがコードするタンパク質の分解促進機構を融合させることにより、任意のタイミングで代謝経路を増殖から生産に最適化された状態に迅速に切り替えられるシステムを構築した。
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