研究課題/領域番号 |
16K18310
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
吉村 彰記 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 航空技術部門, 研究開発員 (20462898)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 炭素繊維強化プラスティック / 材料不整 / 構造・機能材料 / 複合材料 / シミュレーション工学 / 有限要素法 / X線コンピュータ断層法 |
研究実績の概要 |
本研究では,炭素繊維強化プラスティック(CFRP)内に発生する微小欠陥の影響を含んだマルチスケール損傷シミュレーション技術の開発を実施している。本研究は実験的アプローチと解析的アプローチの両方からこの課題に取り組んでいる。 実験的アプローチでは,サブマイクロフォーカスX線CT装置によるCFRPの三次元断層画像を元にして,繊維うねりを定量化するための画像処理手法を開発した。申請者は過去の研究で,デジタル画像相関法(DIC)を断層画像に適用することによって繊維方向を得る手法を開発していた。本研究では,断層画像の二値化と細線化,微分フィルタを組み合わせた,新たな繊維方向計測手法を開発し,これをDIC手法と組み合わせることによって,繊維方向の計測をより高精度化することに成功した。また,うねりを含みやすい条件でCFRPを製作し,JAXA保有のサブマイクロフォーカスX線CT装置を用いて断層画像を取得した。開発した手法を本CFRPに適用し,繊維方向の分布を統計的に得ることができ,繊維方向のバラつきのモデル化が可能になった。 解析的アプローチでは,繊維うねりのような幾何学的な材料不整を考慮することが可能なマルチスケール解析手法を開発した。解析手法は,均質化法と摂動法を組み合わせており,繊維のうねりは,理想状態からの節点位置の微小な摂動であるとして,定式化を行った。本研究で定式化した手法では,繊維の位置の変化,位置ずれにより発生する繊維方向の変化,繊維体積密度の変化の三つを考慮することが可能である。本研究では,提案した手法を単純なCFRPモデルに対して適用し,従来手法を用いて解析した結果同士を比較して解析手法の妥当性の検証を行った。 本研究によって開発された数値解析手法については,現在,学会発表準備および投稿論文作成を進めており,近く公表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定において,本年度までには①X線CT断層画像からの繊維方向計測手法の改良と,それを用いた繊維方向取得,②繊維方向のバラつきの数学的モデル化,③マルチスケール解析手法の定式化,妥当性検証まで,を実施する計画であった。 現在までの実績において,X線断層画像からの繊維方向計測手法の改良は,既存の研究で開発したDICによる手法と,新たに開発した修了しており,繊維方向のモデル化は,統計的な繊維方向分布モデルとして得ることができた。 また,解析モデルについては,均質化法と摂動法を組み合わせてマルチスケール解析手法を定式化し,妥当性を検証することができた。 このため,本研究課題については現在までのところほぼ順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
おおむね研究が予定通りに進捗しているため,当初計画にしたがって研究を実施する予定である。平成29年度には,ここまでで開発したマルチスケール解析技術を,実験と比較して妥当性検証を行う。CFRP積層板を用いて,引張・圧縮試験,曲げ試験等を実施して,その剛性,ひずみ分布などをマルチスケール解析手法が精度良くシミュレートできることを確認する。 次に,CFRPの損傷進展解析を可能にするため,マルチスケール解析手法に損傷を表現するモデルを導入する。層間はく離等をモデル化するためにCohesive zone modelを導入するとともに,層内き裂,繊維破断を考慮するために連続体損傷力学モデルを導入する。 平成30年には,CFRPを用いた航空宇宙構造要素供試体を作成して,X線CTと,本研究で開発した手法を用いて,構造の各点での繊維方向およびそのよれを測定する。次に,それをマルチスケール解析手法によって解析し,解析と実験の比較を実施する。これにより,クーポンレベル,構造要素レベルでの解析手法の妥当性を検証し,手法の開発を完成させる。 ただし,現在,JAXA保有のサブマイクロフォーカスX線CT装置が故障し,修理に長期間かかる見通しになっているため,今後の研究計画において,他機関のX線CT装置の使用を検討するとともに,より繊維よれの見えやすく,解像度の低いX線CT装置を用いても実験が可能な,織物CFRP等を用いる実験の実施を検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費は実験用の機材・消耗品の購入にほぼ計画通りに用いたが,もともとの予定よりも僅かに少額で済んだため,その差額が次年度使用額となったものである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度,実験用消耗品(ひずみゲージ等)の費用の一部として当該費用を使用する予定である。
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